前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
「……そんな健気な目で言われると、不埒な願いまで頼んでしまいそうになるんだが」
「それは……ええ。構いませんわ」
「いいのか? なら……いや、だめだ。せめて最初の間は紳士でありたいんだ。野獣のようにあなたを貪るのは、自分自身が許せない」
「テオバルト様……」

 ルティアはテオバルトの気遣いに感動する。

 今までの反動のせいか、テオバルトだけでなくルティアもまた、際限なく彼が愛おしく、欲があふれてきた。

「お願いとはなんですの?」
「結婚したら、テオ、と呼んでほしい」
「まぁ、そんなことでいいんですの」
「最近ようやく殿下から名前で呼んでくれるようになったしな」

 彼は吐息で耳をくすぐりながら、当時のことを語る。

「恥ずかしそうに名前を呼ぶあなたも、殿下と言って、慌てて名前で呼び直すあなたも愛らしかった」
「もう……テオ、でよろしいんですの」
「うん?」
「旦那様、でなくてよろしいんですの」

 顔を赤くしながら尋ねるルティアを、テオバルトは目を大きく見開いてまじまじと見つめてくる。

「可愛すぎか……」
「え?」
「いや。あなたが可愛すぎて、おかしくなりそうだと思っただけだ」

 丁寧に説明され、ルティアはさらに顔を真っ赤にさせた。恥ずかしくてテオバルトの肩口に額を当て、言い訳のような言葉を重ねる。

「別に、おかしいことではないと思います。わたしの友人も、結婚してからは夫のことを旦那様とお呼びしていますし……テオバルト様は王子なので、少し違和感を覚えるかもしれませんが、わたしの夫になることは同じで……んっ」

 顎を掬われ、口づけされる。後頭部を彼の大きな掌で支えられ、貪られながら髪の毛をくしゃりとかき混ぜられる。

 ようやく解放された時には息が上がり、ルティアは涙目でテオバルトを睨む。

「必死で可愛い言い訳をする婚約者殿に我慢できなかった」
「テオバルト様は優しい方ですが、時々、意地悪です……」
「そうか? まぁ、しつこいのは認める」

 まだ彼の気持ちを受け入れられない時のことだろうか。

「わたしが修道院へ入ったら、本当に聖職者の道へ進むおつもりだったのですか」
「ああ。司教となって、あなたを口説き落とすつもりだった」
「えっ、司教になっても?」

 当然だろうと言われ、絶句する。

「還俗させれば何も問題ないからな。修道女になれば、俺以外に求婚する者はいなだろうし、それならそれで問題ないかと思ったんだ」
「王子が……司教が口説くことは大問題です」

 本当にこの人は……と呆れる一方、微笑ましいような気持ちにもなる。ルティアが神の道へ逃げ込んでも、テオバルトは絶対に諦めない。それだけ自分のことが好きなのだ。

「ん? どうした?」

 ルティアがそっと身を寄せて黙り込んだので、テオバルトは機嫌を損ねたとでも思ったようだ。そんなわけないのに。

 そのことを彼に伝えなくてはと、首に手を回し、自分から彼に抱き着く。小さな声であったが、耳元で囁くので、きっと一言一句拾ってくれるはずだ。

「テオバルト様。わたしを見つけてくれて、愛を捧げてくれて、ありがとうございます。わたしもあなたと同じくらい……それ以上の愛を捧げると誓います」

 そうして驚くテオバルトの顔を見て微笑むと、自分から口づけした。

 テオバルトは離さぬよう抱きしめると、ルティアの想いに応えた。愛していると、何度も言いながら。

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