可哀想な猫獣人は騎士様に貰われる
「ジル」
「な、お、お仕事はっ?」

 わざと踵を鳴らした甲斐あってか、足音をしっかり捉えていたであろうジルは慌てふためきながらオーランドを迎えた。

 手を振ったことを恥ずかしがっているのか、はたまた後悔しているのか。困ったように眉を下げつつも歩み寄る彼女に、オーランドは大股に近付いて、その華奢な体を軽々と抱き上げてしまった。

「ひにゃ!?」
「あまり可愛いことをしないでほしい。返事もまだなのにかぶりつきたくなる」
「かぶりつく!? わ、わっ、止まって」

 幼子にするようにぐるぐると回ってやると、ジルは身体能力に優れた獣人にあるまじき仕草でわたわたとオーランドの肩にしがみつく。

 初対面の時からうっすら察してはいたが、人間社会の中で育った彼女は獣人らしさが抜け落ちている。己の敵を識別する嗅覚であったりとか、戦うときに必要な筋力や直感などといった──いわゆる本能的な部分が。

 ありていに言うなら、人間に飼い慣らされたことで野性を忘れてしまい、簡単な狩りの仕方も分からない猫。それがジルだった。

 無論そんな失礼なことを本人に告げるはずもなければ、別に「だからもっと鍛えてやらなくては」などとお節介なことを考えているわけでもない。オーランドは、弱々しくて危なっかしくて呆れるほどお人好しなジルが好きだから。

 まあ──そのお人好しのせいで、足を切られて呻く王女にまで手を差し伸べるのではないかと、内心冷や冷やしたものだが。

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