可哀想な猫獣人は騎士様に貰われる
「なあレジー、お前は革命軍のリーダーだ。それ以外の役目は与えられていない。今までもそうだっただろう? 民の怒りと不安を必要以上に煽ったのも、王家から寝返るよう貴族たちに根回しをしたのも、王族をひとり残らず殺すために綿密に計画を立てたのも……お前じゃなくて俺だったじゃあないか」

 ヴァレリアンは、アゼリア王国の肥沃な土地と未採掘の鉱山を欲しがった。しかし戦争を仕掛けるには双方の被害が大きく、周辺国からのイメージも悪くなるため、何かよい手段はないかと思索した結果──首をすげ替えるのがいいと兄は言った。

『こちらの言うことをよく聞いて、素直に尻尾を振ってくれるような国にしたいね。ちょうどほら、今の王家は評判が悪いから』

 入れ替え時だろう?

 かくしてヴァレリアンとオーランドは、アゼリア王国に内乱を起こさせた。

 革命軍の長には、侯爵家の嫡男で見目もよいが、逞しい妄想癖が玉に瑕なレジーを選び。王家の動向や不正取引を探るためにオーランドを近衛騎士として潜り込ませ。革命軍の構成員はブルーム王国の息が掛かった貴族を中心に集めた。

 そのため、革命軍の実質的なリーダーはオーランドだったわけだが、周囲から故意に持て囃され浮かれていたレジーが、それを知る機会はなかった。

「お前は今まで通り、その達者な口で民の機嫌を取れば良い。それ以外のことは周りがやってくれるさ」
「な……僕を、馬鹿にしているのか」
「ああ。こうして顔を見るだけで苛々するからな」

 オーランドが以前と違ってよく喋ったり態度が横柄だったりと、状況がおかしいことには気付き始めているのだろう。顔色がよろしくないレジーを真正面から見据え、オーランドは片方の眉を上げて挑発的に微笑んだ。

「国を変えるというのはな、綺麗事だけ言ってても駄目なんだ。お前、数年前にクロエ王女の誘いを素っ気なく断っただろう? あれは本当に悪手だった」
「う、受けるわけがないだろう! あんな毒婦の誘いに応じるなんて、僕にはジル殿がいるのだから……」
「──断られた腹いせに、王女はジルが骨折するまで蹴り続けたんだぞ」

 思い出すのも忌々しい。ほとんどが廃棄される大量の食事に、目が眩むほど煌びやかな装飾。自身も派手に着飾ったクロエが、そのパーティーを珍しく早めに切り上げたと知らせが入り、控室に行ってみれば──既にジルがぐったりと倒れ伏していたのだ。

 レジーのことを口汚く罵倒しヒステリックに叫ぶクロエを何とか宥め、睡眠薬で強制的に眠りにつかせた後、オーランドはすぐさまジルを回収して手当てを行った。

 ──このまま呆気なく死んでしまうのではないかと、恐怖に苛まれながら。

『……姫様は……?』
『眠られた』
『そうですか……なにか嫌なこと、あったのかな』

 そう呟いて寝落ちた彼女をすぐにでもブルーム王国に連れ帰りたくなったが、その身にアゼリア王家の血が流れている以上、簡単に国外には出せない。安易に連れ出せば、最悪、アゼリア王家がジルを始末するために刺客を放つことだって考えられた。

 ゆえにオーランドは、ジルが王女の激しい怒りを一身に受けずに済むよう、不本意なこともやるようになった。

「お前が王女の機嫌を損ねるたび、俺は王女をお慰めしなくちゃならなかった。いいか、お前のせいで、ジルは理不尽な暴力を受ける羽目になり、俺は好きでもない女を抱かなきゃならなかったんだよ」

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