可哀想な猫獣人は騎士様に貰われる
お日様と猫
 綺麗な青空だ。

 ふわりと風に揺られる白のカーテン。開け放たれた扉の向こう、こぢんまりとしたバルコニーには一脚のガーデンチェアと、鉢植えの花がいくつも飾られている。

 程よく温かい薄手の毛布に包まり、午前の爽やかな風を頬に受けながら、ジルは暫し、その絵画のような景色に見惚れていた。

「ここは……?」
「ブルーム王国のフォーサイス領だ」

 ビクッと全身を震わせたジルは、慌ただしく起き上がる。

 真っ白でふかふかなベッドの横、椅子に腰掛けていたのはオーランドだった。近衛騎士の制服は着ておらず、生成り色のチュニックに黒いズボンやブーツと、とてもシンプルな出で立ちだ。

 開いた胸元や捲った袖から褐色の肌が見え、ジルはパッと視線を外しておく。ところでブルーム王国ってどこだろう、隣国だろうか、いやそれよりも、とジルは落ち着かない頭で口を切る。

「あの……」
「オーランドと」
「……オーランド、様?」

 窺うように名を呼べば、うねった前髪の隙間、真夜中の空に似た双眸がわずかに細まる。

 ジルはそれを相槌と捉え、恐る恐る問いを口にした。

「あなたは姫様を裏切って、革命軍に加担したのですか……?」
「いや。初めから目的があって王女の近衛として潜り込んだだけだ。そもそもアゼリアの民でもないから、裏切るも何もない」
「……ここへ来る途中で、あなたと話していた方が下した命令で?」
「起きていたのか」
「いや、その、勝手に耳が拾って」

 はっきりとは覚えていません。頭の耳を手で隠しながらもごもごと言い訳をすると、オーランドがおもむろに身を乗り出した。

「隠すな。この国に獣人を虐げる文化はない」

 手をやんわりと下ろされたジルは、そんなこと言われても、と代わりに耳をぺたんと後ろに伏せてしまう。

 産まれてからずっと、クロエや国王夫妻に獣臭いだとか穢らわしいだとか散々言われてきたのだ。耳と尻尾を見て、あからさまに嫌そうな顔をするメイドだっていた。近衛隊だって──。

 そこまで考えて、はたと思い出す。

 そういえばこの男だけは、一度もジルを虐げなかった。何なら、クロエのいないところで悪戯をしようとした騎士たちを追い払ってくれたこともある。鞭で打たれた日は軟膏を置いて行ってくれたし、骨折したときにすぐさま応急処置をしてくれたのも彼だった。

 如何せん何も喋らないから、ジルはびくびくしながら彼の施しを受けていたのだが……あれはクロエの指示などではなく、彼自身の優しさだったのだろうかと、今更ながら気が付いた。

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