可哀想な猫獣人は騎士様に貰われる
 ◇

 ──可愛い。

 ぴこ、とよく動く三角の耳。艶を取り戻した白茶色の髪は三つ編みにされ、切り整えた前髪の下では快晴の空とよく似た淡い青色の双眸が瞬く。

 身に纏う衣服はみすぼらしいボロ布ではなく、夏らしい半袖のワンピース。落ち着いたブルーとホワイトのコントラストが映える、上品なスカートが彼女の細い脚を美しく魅せていた。

「可愛い」

 小一時間ほど執務室から庭を見下ろしっぱなしのオーランドを、メイドたちは生暖かい笑顔で見守っている。



 ──アゼリア王国での五年以上に及ぶ任務がようやく終わり、ブルーム王国南部にあるフォーサイス領を兄から報奨として受け取った後、オーランドは早々にジルをそこへ連れて行った。

 初めは周囲を取り巻く環境が一変したことに戸惑っていたジルも、ひと月も経てば屋敷の空気に慣れたようだ。痛々しいほど痩せ細っていた体も、少しふっくらとして健康的になったことは喜ばしい。

 ここにいる使用人は獣人への忌避感など皆無で、ジルの素性を知る者だっていない。彼らはジルのことを、オーランドが連れてきた恋人か何かだと思っていた。

 それでいい。外堀を埋めればお人好しなジルは求婚を断りづらくなる。最悪、返事をもらえなくともなし崩し的に──という計画も頭にはあるが、それは最終手段だ。

 今はまだ、ようやく理不尽な暴力と苦痛から解放されたジルが、晴れた空の下で穏やかに過ごしてくれればいい。

 歳の近いメイドと一緒に木陰で涼んでいたジルが、ふとこちらを見上げる。ぎょっと目を丸くして、ついでに耳もピンと立てて驚いた彼女は、やがて控えめに手を振ってきた。

「…………」

 オーランドはしばし瞑目し、速やかに屋敷の外へ出た。



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