素直になりなよ。
窓際の自分の席に着くと、前の席に松田さんが移動してきた。
「五十嵐くん、よろしく。」
松田さんにそう声を掛けられ、「おー。」と返した。
――表情、堅っ。
声を掛けてきた松田さんは、あんまり笑ってなかった。
よっぽど体調悪いんだろうな。
窓の外を見ると、曇天だった空からポツポツと雨が降り始めた。
――今日の夕方の練習、できんのかな。
夏休みにはインターハイがある。
それまでにチームの改善点と、他校の傾向を掴んで…
早くも、担任の話などそっちのけでサッカーのことを考え出す。
こうなると、アドレナリンが一気に出てきて、体のキツさすら忘れる。
サッカーのこととなると、いつもこうだ。
俺にはサッカーしかないから。
そう言い聞かせてずっとやってきたから仕方ない。
手元のノートに、思いついた練習メニューを書き込んでいると…
『五十嵐くんっ』
と声を掛けられ顔を上げた。
見ると、松田さんが、後ろを振り返って俺を見ていた。
『プリント。回して。』
『あ、わり。』
そう言って慌てて回ってきたプリントを受け取る。