素直になりなよ。

俺にプリントを渡した松田さんが前を向いた途端、ふんわりといい香りが漂ってきた。


――なんだ?


一瞬、ドキッとする。


『おい五十嵐、回せって。』


1番後ろの席に座ってる田中に急かされて急いでプリントを回した。


さっきの出来事が気になって、せっかく思いついていた練習メニューのことすら忘れてしまった。


――なんの香り?香水??…いや、違うな…。


少なくとも、人工的な匂いではないのはわかった。


担任の話を聞くふりをしてじっと松田さんの頭の後ろを見ていると、急に松田さんが髪をまとめ始めた。


さっきの香りがまた漂ってくる。


――うわ、まじかよ。


めちゃくちゃ落ち着く、いい香り。


後れ毛がないか確認しながらまだ髪をまとめる手を動かす松田さん。


その度にあの香りが漂ってくる。

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