素直になりなよ。
ヘアゴムでひとまとめにされていく髪が揺れている。松田さんのうなじも見え、見てはいけないものを見ている気分になった。
――こんなの毎日されたら俺、集中力保たないんじゃね?
授業、聞こ。
とりあえず気を紛らわすために担任の話に耳を傾ける。
ノートに板書を書き写していると、松田さんが机の中から何か取り出そうと、椅子を引いた。
途端に俺の机に椅子が当たる。
『ごめん!』
松田さんがまた振り向いて小声で謝る。
『いや…大丈夫』と返しながら、心の中は全然大丈夫ではなかった。
振り向いた時に香って、前に向き直った時にまた香った、松田さんの香り。
――やべ。ねむ…
睡眠不足だったせいか、松田さんのその落ち着く香りを嗅いだ後、俺はすぐに眠りの世界に入っていった。