素直になりなよ。

ヘアゴムでひとまとめにされていく髪が揺れている。松田さんのうなじも見え、見てはいけないものを見ている気分になった。


――こんなの毎日されたら俺、集中力保たないんじゃね?


授業、聞こ。


とりあえず気を紛らわすために担任の話に耳を傾ける。


ノートに板書を書き写していると、松田さんが机の中から何か取り出そうと、椅子を引いた。


途端に俺の机に椅子が当たる。


『ごめん!』


松田さんがまた振り向いて小声で謝る。


『いや…大丈夫』と返しながら、心の中は全然大丈夫ではなかった。


振り向いた時に香って、前に向き直った時にまた香った、松田さんの香り。


――やべ。ねむ…


睡眠不足だったせいか、松田さんのその落ち着く香りを嗅いだ後、俺はすぐに眠りの世界に入っていった。

< 6 / 85 >

この作品をシェア

pagetop