身代わり婚約者との愛され結婚
 そんな私の様子を眺めていたベネディクトは、挨拶すらせず「ふぅん?」とだけ口にした。


「じゃ、行くか」
「え、ど、どこにでしょう?」

 戸惑う私を一瞥したベネディクトはフンと鼻を小さく鳴らし、ゆっくり足元から頭のてっぺんまでじろじろと見て、はっと息を吐いた。


「出かけるつもりだったんだろ? ま、お喋りなんて退屈だからな。いいんじゃね」
「あ、そう……です、わね」

“これはレヴィンと出かけるつもりで着た服だったのに”

 つい残念に思うが、そんな私の様子なんて興味ないらしくベネディクトがくるりと背を向け外に出る。

「あ、ちょ……!」

 このまま見送る訳にはいかず、私は渋々彼の後を追った。


 特に話すこともなく、特に話しかけられることもない馬車内。
 退屈そうにあくびをするベネディクトを見ながら小さくため息を吐く。


“今日はずっとこうなのかしら”

 楽しみにしていた月に一度の茶会。
 これが正しい形だとわかっているのに落胆してしまう自分が滑稽で、いよいよ取り返しがつかないほど気持ちが育ってしまったのだと改めて実感させられた。
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