身代わり婚約者との愛され結婚
 ベネディクトが馬車を停めたのは、偶然にもレヴィンと初めて街に来た場所と同じで。


「綿菓子屋さん、今日もあるわね」

 前に来たときはあんなにわくわくしたのに、と思わず呟くと、どうやら聞こえてしまっていたらしいベネディクトが反応する。

「あぁ、庶民の食い物だろ。口にする価値はないな」
「なっ」
「普段いいもん食ってるんだから、わざわざ出店で買う必要もねぇだろ」

 庶民の店、と一瞥するだけのベネディクト。
 そんな彼の様子に苛立つものの、これが正しい貴族の姿というのも事実だった。


「じゃあ、どこに行くのよ」
「んー、どうすっかなぁ……」

 曖昧な返事をしながらズンズンと歩くベネディクトを必死で追う。
 次に見えてきたのは、レヴィンにカフスボタンを買ったあの宝飾品店だった。


 その店が見えてきたことに焦りを感じる。

“どうしよう”

 だってその店が見えるということは、あの日目撃してしまったベネディクトが消えた繁華街が近くにあるということで――

 
「まさか、よね?」

 ゴクリと唾を呑み、自然と彼を追う足が止まったことに気付いたベネディクトは、私の腕をギュッと掴んだ。
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