身代わり婚約者との愛され結婚
「な、何するの!」
「さぁ、ナニだろうな」
ニヤリと嫌な笑顔を向けられ、ぞわりと鳥肌が立つ。
必死に抵抗してみるが、体格差のあるベネディクトには敵わず引きずられるような格好で一軒の宿屋に入った。
“このままじゃまずいわ……!”
パニックになりそうな思考を何とか抑え、ここで大声を出せばまだギリギリ回避できるかもしれない、と宿屋の受付の方をチラリと見る。
こんな場所で警備隊を呼ばれ注目されるなんて公爵家としても侯爵家としても醜聞に他ならないが、それでもそちらの方がマシだと口を大きく開いた、その時だった。
「“レヴィン”な」
「!」
ボソッとベネディクトに耳打ちされた言葉にギシリと体が固まる。
相変わらずニヤニヤしているベネディクトは、何とも思っていないように私を一瞥して。
「なぁ、あいつともこういう店に来たのか?」
「な、んで……?」
喉が張り付き声が掠れる。
そんな私を面白そうに見ながらベネディクトは言葉を重ねた。
「だってお前、この店が『どういうことをする店』か知ってるみたいだったからな」