身代わり婚約者との愛され結婚
 ふわりと花の香りが私を包み、レヴィンの温もりが心地いい。

 ベネディクトに触れられ強張った体から力が抜け、私もレヴィンの背中に腕を回してぎゅっと抱き締め返した。


“ずっと、こうしていれれば良かったのに”

 レヴィンに貰ったサギソウの栞が脳裏に過る。

 『夢でもあなたを思う』という花言葉の通り、私たちは『夢でしか』思い合うことは許されなくて。


「貴方を当事者にしてしまってごめんなさい」
「当事者にして貰えない方が傷つきますよ」

 巻き込んだことに謝罪すると、そんな優しいフォローが返ってくる。
 相変わらずレヴィンは優しくて、本当に温かくて。

 

 ――さっき、泣いてしまったからだろうか。 

「……っ、ふ……っ、うぅ」

 レヴィンの胸に顔を埋めながら涙が溢れる。
 
 一度決壊してしまった涙腺はなかなか止められず、私がここで泣くだなんて最低だとわかっていながら彼にすがってしまった。

 そんな私の髪を優しく撫でるレヴィンの手が、こんな時だというのに私の胸を高鳴らせて。


「ずっと、ティナを泣かせたかったんです」
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