身代わり婚約者との愛され結婚
 そんな私の耳元で、くすぐるように囁かれた言葉に少しきょとんとしてしまう。

“泣かせたい……?”

 思わず見上げると、涙の溜まった私の目元にレヴィンがちゅ、と吸い付いた。


「はじめて会ったティナは、来ない婚約者に戸惑いつつも怒りも嘆きも表さなかった」

 私とレヴィンがはじめて会ったのは、彼がベネディクトの身代わりとしてはじめて来た四年前のお茶会で。

「失礼だと追い返されることも、最低だと八つ当たりされることだって覚悟していたのに、それどころか毎回代わりに来る俺にもちゃんと対応してくれた」
「そんなの、当たり前じゃない」

 決して特別なことはしていない。
 レヴィンも大変ね、と少し同情しつつ一緒にお茶を飲んだだけ。

 本当にただそれだけで。


「そんな当たり前が、俺には凄く悲しく見えたんです」
「悲しく?」
「この子は泣くことを許さないんだな、って。こんな理不尽な対応をされても、自分の立ち位置を把握し自分で折り合いをつけて律する姿が……ベネディクトの言いなりになるしかない俺には眩しくて」

“レヴィン……”
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