身代わり婚約者との愛され結婚
 本当は触れて欲しかった。
 無理やり触れられたベネディクトの手の感触を、舌の気持ち悪さを上書きして欲しいとそう思ったけれど。


“でも、もしレヴィンと一線を越えるなら”

 他の感情などなく、幸せにだけ包まれて触れ合いたい。


 そう思った私は、レヴィンの腕にそっと腕を絡ませた。

「これくらいなら、いいでしょ?」
「……はい、もちろんです」

 にこりと微笑んでくれたレヴィンが、そっと口付けを落とす。


 もしかしたら、これが最後かもしれないから。


 まだ何も見えない未来と、真っ暗なこの先を打ち消すように私は彼との口付けに心を委ねたのだった。



 ニークヴィスト侯爵家の家紋の入った馬車で出た私が、クラウリー伯爵家の家紋の入った馬車で帰ってきたことに驚いたのはジョバルサンだ。

 少し不安そうにする私を宥めるようにレヴィンが背中を撫で、彼の手に引かれるように扉を開けると、ジョバルサンが呼んだのかハンナがバタバタと大慌てで玄関まで迎えに来てくれる。


「もう、お客様の前よ」
「も、申し訳ございません。ですが……!」
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