身代わり婚約者との愛され結婚
 何の間違いかと固まっている私の代わりに、控えていたハンナがすかさず婚約破棄の同意書を侯爵に手渡す。

 その内容にザッと目を通した侯爵は、何の躊躇いなくサインをしハンナに書類を返した。


“どういうこと……?”


「婚約は残念なことになってしまったが、それでも我がニークヴィスト侯爵家はこれからもエングフェルト公爵家とは親しくしたいと思っていてね。また縁があれば連絡をしてくれ」
「あ、はい。お心遣いに感謝いたしますわ」

 
 立ち上がった侯爵が握手を求めながら口先だけの言葉を並べる。
 握手した手はすぐに離され、握手の体で立ち上がった私は、そのまま促されるままにニークヴィスト侯爵家を後にする。


 未だに信じられず呆然としていると、馬車の扉が閉まった途端に興奮した様子でハンナが口を開いた。


「やりましたね、お嬢様!」
「そ、そう、ね?」
「もうっ! 今晩は祝杯ですわ!」

 うきうきした様子で笑うハンナから、侯爵がサインしてくれた婚約破棄の同意書を確認する。


“ちゃんとサインしてあるわ”
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