身代わり婚約者との愛され結婚
 何よりも『商品』としてベネディクトを売り込んだあの侯爵が、慰謝料のいの字すら口に出さなかったことがあまりにも不気味だった。


「それでも、もう全て終わったんです。それにもうお嬢様の婚約破棄は受理されました。今更何をそんなに心配されているのですか?」

 不思議そうに小首を傾げたハンナにそう問われ、思わず口ごもってしまう。


 確かにそうだ。
 もう受理までされたことを後から覆すことはもちろん、同意書にサインをしたのだから今更慰謝料なんて言い出せない。


“本当に、もう終わったの?”


 あまりにも呆気なく処理されてしまったせいか、この纏わりつく不気味さを怖がっていたのだが。


「これでいつでもクラウリー伯爵令息様とイチャイチャできますね!」
「ブッ!」

 ふふ、と明るく笑ったハンナのその一言に思わず吹き出してしまう。

 
「い、イチャイチャ……!?」
「え、されないのですか?」
「しないわよっ!!」
「えぇっ!? あの旦那様と奥様のご息女であるお嬢様が……?」
「そ、それを言われると……」

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