身代わり婚約者との愛され結婚
 私の話を聞いたジョバルサンは、顔色ひとつ変えずに頭を下げそのまま執務室を出る。

 一人残された私はぼんやりと今日一日で溜まってしまった書類の束を眺めていた。


“裏取りが出るまで二週間ってところかしら”

 ジョバルサンはどこかの創作話によくあるような、影の仕事や情報を集める専門という訳ではもちろんない。

 長年執事として働いているからこその顔の広さで、どこにでもいる少し口の軽いメイドや侍従、従僕から情報を集めてくれているのだ。

“だからどうしても情報に偏りが出る”

 より正確な情報が欲しければ、私側もジョバルサンが情報を集めやすいようにピンポイントで依頼するしかなく――……


「暫くは、お茶会に通い詰めになるわね」


 ――没落。


 そんなまさか、と思いつつも頭を過るのは花のない花屋。


 この現状が、条件だけだとしても婚約者がいたのに他の人を好きになってしまった罰なのだとしたら、その罪を背負うのは私のはずだったのに。

 大事に守られ、庇われ、当事者から外された。

 今なら『当事者にして欲しい』と言ったレヴィンの気持ちがよくわかるから。

 
“信じてる”

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