身代わり婚約者との愛され結婚
「ぅぐっ、い、いいわ、一思いにやって……!」

 ギリギリとコルセットの紐が締められ体が軋む。
 紐を引っ張るハンナの指が真っ白になるほど力一杯締め上げられ固定されたお陰で、私史上最高のシルエットにはなった……のだが。


「こ、これでは何も食べられないわ」

 胃を潰してしまっているのではと思うほど締められ呼吸が精一杯。

 然り気無く自分の食べたいものも今晩の軽食にラインナップさせていた私が少し恨みがましくそう主張したものの……

「食べるなんて言語道断ですよ」
「えっ!?」

 さらっと告げられたハンナの言葉に唖然とする。


“ご、言語道断……!?”

「お嬢様は本日の主役ですので、食べている時間はないかと思われます。……それに」
「そ、それに?」
「必ずあのベネディクト様を監視……ではなく、婚約者として見張られるべきかと思います」

 監視も見張りもほぼ同じ意味なのでは? なんて考えながら、ハンナの言葉に愕然とする。

“そこまでベネディクトの印象が悪いなんて”

 特にハンナは私の専属侍女として誰よりも側にいたため、彼が一度も茶会に出席しなかったことなどは知っている。
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