身代わり婚約者との愛され結婚
 そして木の棒部分を手に持ってしまっている以上フォークもナイフも持てない訳で。

“そもそもフォークもナイフも渡されてないのだけれど”

 食べ方がわからず、思わずレヴィンの方を見上げると、どこか楽しそうに細めた彼のアメジストのような紫の瞳と目があった。


「そのまま直接かぶりつくんですよ」
「か、かぶりつくですって……!?」

 レヴィンの言った言葉に愕然としながら周りへ視線を向けると、確かにこのお菓子を持っている人たちは直接かぶりついている。

“公爵令嬢たる私がそんなはしたないことを……? で、ですがこの場でのルールはかぶりつくことなの……っ!?”


 そんなまさかと葛藤したが、折角買って貰ったのに食べないなんて失礼なことは出来ない。
 それにお礼をする立場の私は、レヴィンのお願いを聞かなくてはならなくて。


 ごくり、と唾を呑んだ私は、勇気を出して目の前のその綿菓子にかぶりついた。

「!?」

 その瞬間口内に甘さが広がりふわりと香る。
 それなのに口に入れたはずの綿菓子はもう跡形もなく溶けてしまっていて。

「ほ、本当に雲なんですの?」
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