身代わり婚約者との愛され結婚
 ベネディクトの馬鹿が押し付けるその役割を断るか、私とベネディクトの婚姻が正式に成立するまではきっと彼には婚約者なんて作れないだろうことを想像し思わず同情してしまう。

 
“せめて少しでも楽しんでいただけたらいいのですが”

 だが、あくまでも彼は婚約者の身代わりで来ているだけなのだ。
 私と楽しく会話をしたところで有意義かと聞かれれば首を傾げてしまう。

 
 ならばせめて公爵家自慢の美味しいお茶だけでもと、いつものようにテーブルへ視線を移した私が口を開いた。

「お茶、飲んで行かれますわよね?」
「お許しいただけるのなら」
「もちろんですわ」

 どうやら四十六回も重ねたらしい恒例の会話をした私たち。

 互いに慣れたものだと内心思いつつ席に着くと、私専属の侍女であるハンナがすかさず温かい紅茶を淹れてくれる。

 慣れた手つきで私の前に置かれたのはシンプルなストレートティー。
 そしてレヴィン様の前に置かれるのは、マーマレードのジャムを多めに落とした甘めのティーだ。


「相変わらずいい香りですね」
「お気に召したのなら何よりです」
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