身代わり婚約者との愛され結婚
 いつものようにバサリと差し出された花束にドクンと胸が跳ねる。

“今日の花言葉は何なのかしら……!”

 ドキドキしながら、その花びらの内側に独特の斑点模様のある華やかでカラフルな花束を抱き締めた。

 この場で答えを聞いてしまいたい衝動に駆られた私だったのだが、机の上に置いたままのパンフレットが目に入りピクリと肩を跳ねさせる。


“ハッキリと知ってしまったら、答えを出さなきゃいけなくなる……”

 いつまでも、なんて夢物語だとわかっているのに、少しでも長くこの穏やかで優しい時間に浸かっていたいと望んだ私は、彼に花言葉を聞くのを諦めた。


「先日のオペラですか?」

 そんな私の視線をどう受け取ったのか、レヴィンが机の上のパンフレットをパラリと捲る。


「えぇ。凄く……楽しかったものですから」

 面白かった、と言わなかったのは、レヴィンと居る時間込みであることを強調したかったから。

“もちろんこんな言葉遊び、気付かれるはずはないけれど”


 ただの自己満足だと割り切って、むしろただの自己満足だからこそ口にできた言葉だったのだが。

  
「俺も、です」
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