身代わり婚約者との愛され結婚
 ポツリと返されたその言葉に痛いくらい胸が跳ねた。

 まさか伝わってしまったの? という焦る気持ちと、それは同じ気持ちだったから伝わったのね、という浮かれた気持ちで心が乱れる。


 トクトクと高鳴る鼓動を誤魔化すように話題を探した私は、レヴィンが捲っていたパンフレットのあるページに目を止めて。


「そうだわ、今度乗馬なんてどうかしら」
「乗馬ですか?」

 オペラのヒロインが新たに婚約を結んだ王太子としていたデートを思い出して口にする。

“あれはオペラだったから、実際に遠駆けなんてことはしていなかったけれど”


「あら? 私、結構体力に自信があるって言ったわよ。それとも自信がないのはレヴィンかしら」

 ふふん、と少し得意げにそう伝えると、ぽかんと見ていたレヴィンがふっと小さく吹き出した。


「はい、ティナの言葉ですからちゃんと覚えていますよ」
「!」
「俺でよければ、是非ご一緒させてください」


 その意思の強そうな濃い紫の瞳を柔らかに緩めたレヴィンが、そっと私の髪を一掬いし軽く口付けながらそう約束してくれて。


「……絶対、絶対絶対よ? 私、楽しみにしとくわ」
< 93 / 269 >

この作品をシェア

pagetop