アンハッピー・ウエディング〜前編〜
何を言い出すんだ、いきなり。

「いや、そんな…」

「…駄目?忙しい?」

忙しいかどうかは問題じゃないんだが。

「別に…。毎日自分の分は自分で作ってるし、二人分になっても大して手間は変わらないけど…」

「じゃあ、私も学校で悠理君のお弁当食べたい」

「…」

「…やっぱり駄目?悠理君のお弁当はお高いから…」

…お高い訳ないだろ。

あんたが普段学校で食べてるであろう、カフェテリアやレストランのランチに比べたら。

コンビニサンドイッチの方が、遥かに豪華だろうよ。

「作る手間の問題じゃなくて…。俺が気にしてるのは、その…あんたの世間体の問題だよ」

「…?どういう意味?」

どういう意味って、だから…。

「新校舎の生徒は、弁当持参してる奴なんていないんだろ?」

「うん」

「それなのに、あんた一人だけ弁当なんか持ってきたら…。それをクラスメイトに見られたら…」

「皆の人気者になれるね」

前向き過ぎる解釈。

でも、誰もがあんたみたいに、頭の中お花畑な生徒ばっかじゃないだろ。 

「貧乏臭いって思われるんじゃねぇの…?」

周りの生徒は、学校で買ったものを食べてるんだろ?

例の、俺が先週掃除した中庭のパーゴラとかで。

優雅に、ベーカリーで買った焼きたてのパンを齧り、熱い紅茶を飲みながら。

そんな中で、お嬢さん一人だけ…俺の作った弁当を食べる。

そりゃ目立つだろうよ。…悪い意味でな。

「あのな、俺の弁当って重箱に入ってる訳じゃないから。こんなだぞ、ほら」

俺は、作りかけの自分の弁当箱をお嬢さんに見せた。

弁当箱だって、ごく普通の二段弁当。

下の段にはご飯を入れて、海苔を敷いてふりかけを振っただけ。

上の段にはおかずを入れてるが、そのおかずだって…昨日の晩の残り物と、冷凍食品を詰めて。

卵焼きとソーセージと、和えるだけの簡単なサラダをカップに入れて、それだけ。

恥ずかしい弁当…とまでは言わないが。

とてもじゃないが、人様に自慢出来るような弁当ではない。

お嬢さんだってこれを見たら、「やっぱり貧乏臭いから要らない」と言うものだと思ったが。

「わー。美味しそう」

目をキラキラさせてそう言うのだから、参ったもんだ。

あんたはそれで良いのかよ。

「ウインナーがタコさんだったら、もっと嬉しい」

「…あ、そう…」

思い出したよ。

あんた、典型的な子供舌なんだった。

お洒落なレストランより、ケチャップライスのオムライスに喜ぶタイプなんだよな。

俺の手抜き弁当を見て、美味しそうと抜かすとは…。
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