アンハッピー・ウエディング〜前編〜
一時間ちょっとかけて、出来上がったのは。

オムライスと、野菜たっぷりのコンソメスープ。以上。

…料理上手を自称していた割には、意外と普通だな、って思った奴。

怒らないから、素直に前に出ろ。

今日一日、引っ越しと掃除でバタバタして、流石に俺も疲れたんだよ。

時間と体力に余裕があれば、もうちょっとマシなもの作ったよ。

しかし、何となく思いつきで作ったのは良いものの。

女子がオムライス好きだって言うのは、俺の偏見だったりして。

パスタ…とかの方が良かっただろうか。

でも、普段からこんだけカップ麺ばっかり食べてたら、麺類はもう飽きたかなと思って…。

まぁ要らないって言われたら、二日に分けて俺が二人分食べるよ。

…それはさておき。

「…」

「…zzz…」

晩飯出来たんだけど。

まだ寝てるんだけど。この人。

俺が来てからずっと寝てるんだが、これって永眠してないよな?

俺、結構ゴソゴソ動き回ってるのに…。よく寝ていられるな。

神経図太いにも程があるだろ。

さすが無月院本家のお嬢さんだ。

寝たいなら勝手に寝れば良いけど、でも晩飯は温かいうちに食べて欲しいだろう?

俺は改めて、お嬢さんが熟睡しているソファの傍にしゃがみ込んだ。

そのとき初めて俺は、今日から一生、連れ添うべきパートナーの顔を、まじまじと見つめた。

へぇ、こんな顔してるんだ。

え?女性の寝顔を観察するなんて失礼だ、って?

男の前で、無防備にぐーすか寝てるのが悪い。

それに、別に下心がある訳じゃない。

伴侶になると言ったって、その実は主従関係のようなものだ。

自分の立場くらい、俺だって弁えてるよ。

「…」

「…むにゃむにゃ…。…zzz…」

こうして見てみると、意外と綺麗な顔してるんだな。

寝相が悪いらしく、ソファからずり落ちてるけど。

7割くらいソファから落ちてるのに、それでも床に墜落していない器用さよ。

…さて、それは良いとして。

「…おい、そろそろ起きろ。何時間寝てるんだ」

この家に来て、俺はようやくお嬢さんに声をかけた。

寝たいなら寝ても良いけど、先に晩飯を食べてからにしてくれよ。

すると。

「むにゃ…。…?」

眠り姫のごとく閉じられていた、お嬢さんの瞼が。

今初めて、ぱちん、と開いた。

眠り姫のお目覚めだぞ。

良かった。やっぱり永眠している訳じゃなかったらしい。
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