アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「…あんた、本気で言ってるんだよな?」

冗談のつもりじゃないよな?

本気で、俺の弁当を学校で食べるつもりなのか。

「ふぇ?本気って?」

「本当に、弁当作って欲しいのか?」

「うん。悠理君が良いなら…」

…あ、そう…。

「昼休みになる頃には、冷めてると思うけど…。冷たくても食べられるのか?」

新校舎のカフェテリアで食べる昼食は、どれもこれも出来たてで温かいのだろうが。

お弁当はどうしても…冷めた状態で食べることになるからな。

まさか、電子レンジなんて置いてないだろうし…。

しかし、お嬢さんは平然とした様子で。

「悠理君のご飯はいつも何でも美味しいから、きっと学校で食べても美味しいよ」

当たり前のようにそう言うのだから、俺、本当この人が何考えてんのか分かんねぇ。

何処から来るんだよ、その根拠のない自信は…。

…あぁ、もう良い。

恥かいても知らないからな。

「分かったよ…。作るよ」

「本当?良いの?」

「でも、文句言うなよ?」

「言わない、言わない」

そう。それなら良いよ。一緒に作ってやる。

どうせ、朝食は二人前作らなきゃいけないんだし…。弁当も二人分作るとするか。

「明日から?明日から悠理君のお弁当、持っていけるかな」

「いや、今日からで良いよ…。今丁度作ってるところだったし」

あ、でも弁当箱どうしよう…。

…俺が前使ってた、お古のお弁当箱使うか。

で、タコさんウインナーがどうとか言ってたな…。

…時間もあるし、やるか。

「わーい。悠理君のお弁当。やったー。お昼が楽しみだね」

何故か、めちゃくちゃテンションが高くなっているお嬢さんである。

まだ朝飯も食べてないのに、お昼が楽しみとは…。

俺は旧校舎の、自分の教室で食べるから良いけど。 

果たして、新校舎の生徒であるお嬢さんが、昼休みに俺の手作り弁当を食べるとき。

お嬢さんの周りにいるであろうクラスメイトが、どんな反応をするか…。俺は心配である。

無月院家のお嬢様が、まさか庶民が持ってくるような弁当を食べているとは、誰も思わないだろうからな。

俺の弁当のせいで、学校におけるお嬢さんの評判が下がっても、俺は責任取れないからな。

…まぁ、お弁当なんて物珍しいから、学校で食べてみたいって言ってるだけかもな。

何日かすれば飽きて、またレストランに戻るかも。

それなら、それでも良いや。

とりあえず今日は、お嬢さんの分もお弁当作るってことで。
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