アンハッピー・ウエディング〜前編〜
俺、毎日弁当持ってきてたから、菓子パンってあんまり食べたことないんだけど。

最近は、なかなか色んな種類の菓子パンがあるんだな。

「ザクロジャムねぇ…。それって美味いのか?」

ザクロ…というものを、食べた記憶がないんだが…。
 
「美味いぜ。ちょっと食べてみるか?」

「あ、うん。ありがとう…」

ザクロジャムパンを、ちょっと千切って分けてもらった。

ごめんな、なんかせがんだみたいになっちゃって。そんなつもりはなかったんだが。

食べてみると、なかなか美味しかった。

へぇ、こんな味なのか。

「意外と美味いな」

「だろ?毎日菓子パン食ってるからさー。目新しい商品を見つけると、つい買っちゃうんだよな。おまけに2割引だし」

「ふーん…」

確かに、弁当のおかずも毎日同じだと飽きるもんな。

「星見の兄さんは、毎日弁当なのな。マメだな」

「そうか?中学の時からそうだったから…」

マメと言われても、ほとんど昨日の夕飯の残りばっかりだから…。

そんなに手がかかってるとは言えないんだよな。

「偉いなぁ、星見の兄さんのお袋さん」

あ?…あ、いや。

「母親じゃなくて、自分で作ってるんだよ」

「え、マジで?星見の兄さん、料理出来る人?」

「一応、それなりには」

めちゃくちゃ得意です、ってほどじゃないけど。

毎日キッチンに立ってるくらいには。

「大して上手くないけどな…」

「いやー。ご謙遜、ご謙遜。自分、目玉焼きでも爆発させるレベルの料理下手だから、普通に弁当作って持ってこられるだけで超偉いよ」

褒めてくれるのは嬉しいんだけど、目玉焼きを爆発させるってどういうこと?

まぁ、あれだよ。

袋麺を作るつもりで、魔女の毒薬みたいなものを錬成していた、うちのお嬢さんに比べたら。

目玉焼きを爆発させるくらい、可愛いもんだ。

「お弁当を自分で作る息子…。星見の兄さんのお袋さんは幸せ者だなぁ。親孝行な奴だよ君は」

「いや、別に…」

「…それに比べて、あっちのお兄さんは何やってんのかね?」

「…さぁ」

俺にもよく分かんねぇよ。

雛堂の言う「あっちのお兄さん」とは、乙無のことである。

昼休みだっていうのに、乙無は何もせず、ただ窓の外をぼんやりと眺めていた。

…何あれ?…たそがれてんの?
< 112 / 505 >

この作品をシェア

pagetop