アンハッピー・ウエディング〜前編〜
もしかして、今年一年毎日、そうやって昼飯抜きで生きるつもりなのか。

…キツくね?

人間、やっぱり食欲には勝てない生き物で…。

あ、でも邪神の眷属(笑)は人間じゃないから、食欲にも打ち勝てるのか。

いやぁ、その設定はキツいと思うぞ。

眷属でも何でも良いから、食べるものはちゃんと食べようぜ。

「まぁまぁ眷属様、そう言わず。下々の食べ物も意外と食ってみたら美味いっすよ」

そう言って、雛堂は立ち上がって乙無の前に行き。

さっきのザクロジャムパンを千切って、乙無の口に押し込んだ。

雛堂、強行突破。

でも、そのくらいしなきゃ食べそうにないもんな。

いつまでも痩せ我慢してそう。

「むぐっ…!?な、何するんですか?」

雛堂の不意打ちを食らって、ドヤ顔どころじゃない乙無。

我慢すんなって、もう。

「美味いだろ?」

「もぐ…もぐ。…まぁ、悪くはないですけど…」

素直に美味いって言えよ。

「腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ?眷属だって昼飯くらいは食っても良いと思うぞ」

「だから、それは人間の理屈であって…僕達邪神の眷属は、」

「あーうん、はいはい凄いねー。ところでザクロジャムパン、めっちゃ美味くね?」

「…話を聞いてくださいよ」

まぁ、そう言うな。

これも雛堂なりの優しさだぞ。こんな強行突破でもしないと、乙無が痩せ我慢して、昼飯食べないからさ。

ところで、昼飯…と言えば。

「…」

俺は無言で、自分の手元の弁当箱を見下ろした。

「…ん?どうした、星見の兄さん」

乙無にザクロジャムパンを食べさせた雛堂が、席に戻ってきた。

「あ、いや…」

…ちょっと、考え事してた。

お嬢さんのこと…。

今頃あの人も、俺のと同じ弁当を食べてるんだよなぁって思って…。

果たして、本当に食べてるのかね?

持ってきたは良いものの、クラスメイトが見ている手前、こんな貧乏臭い弁当なんて出せなくて。

結局、弁当は封印して、友達と一緒にレストランで食べてそうな気がする。

素直に弁当を食べてたとしても、周囲のクラスメイトはぎょっとしてるだろうなぁ…。

まさか、あのお嬢さんが、昼休みに手作り弁当を広げているなんて…。

雛堂や乙無に言ったって、全然信じてくれないだろう。

果たして今頃、お嬢さんはどうしているのやら…。

旧校舎にいる俺には、想像することしか出来なかった。
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