アンハッピー・ウエディング〜前編〜
この日の昼休み、お嬢さんが何処で何を食べていたのかについて。

それが分かったのは、家に帰ってからだった。

相変わらず、お嬢さんは俺より先に帰宅していた。

多分、学校が終わるなり真っ直ぐ帰ってきてるんだろうな。

俺も直帰してるんだけど、夕飯の買い出しに途中でスーパーに寄ってるから、その分お嬢さんより少し、帰宅が遅い。

俺と違って家事をやる必要はないんだし、友達と遊んできても良いんだけどな。

お嬢さんのプライベートに口を出すつもりはないけど…。

「悠理君、お帰りー」

「ただいま…」

帰ってきた俺の姿を見るなり、パッと顔を綻ばせるお嬢さんである。

「何だよ…。何か良いことでもあったか?」

「うん。悠理君が帰ってきた」

「あ、そう…」

そりゃ帰ってくるだろ。遅かれ早かれ。

全く、何が言いたいのやら…何考えてるのやら分からんお嬢様だ。

「悠理君、今日もご飯作るの?」

お嬢さんは、俺が床に置いた買い物のエコバッグを見ながら聞いた。

「作るよ。勿論」

「今日のご飯はなぁに?」

「今日は鮭の南蛮漬けだ」

「なんまん…づけ?お漬物みたいな感じ?わーい。美味しそう」

南蛮漬け、な。南蛮漬け。

知らないのかあんた。16年も生きてて、南蛮漬けを。

「悠理君の作ったお漬物って、いつも美味しいから。きっと今日のご飯も美味しいね」

と、嬉しそうなお嬢さん。

…なんか色々間違っているような気がしぬくもないが…。

本人が嬉しそうだから、良いか…。期待させておこう。

…あ、そうだ。夕飯のことも良いけど。

「お嬢さん、あんた弁当は?今日、弁当食べたのか?」

「お弁当…?悠理君のお弁当のこと?」

「そう、それだよ」

食べたにしても食べなかったにしても、弁当箱は今日中に返却してくれ。

うっかり鞄の中にでも放置されたら、弁当箱は一晩にして、悪臭発生装置と化すからな。

すると。

「食べたよ。美味しかったー」

目をキラキラさせながら、お嬢さんはそう答えた。

…本当に食べたのかよ。

「マジで…?他のクラスメイトの前で?」

「?うん」

「…」

俺の、あの手抜き弁当が…新校舎のお嬢様の皆さんに見られたかと思うと。

凄く恥ずかしくなってきた。

自分が食べる分には、いくら手抜きでも気にならないんだけどさ。

その弁当を他の人に持たせるとなったら、途端に恥ずかしくなってくるのって、これ何なんだろうな。

「ちゃんと、隠しながらこそこそ食べたんだろうな?無月院家のお嬢様が、貧乏臭い手作り弁当を食べてるところなんて見られたら…」

「?よく分かんないけど、『刮目せよ、悠理君のお弁当!』って感じで食べた。嬉しかったから」

寄りにもよって、クラスメイトに見せびらかしながら食べたのかよ。

刮目せよ、じゃないんだよ…。…中二病か?乙無でもあるまいし。
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