アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…しかも、また小学校低学年みたいなノリで入ってくるし。

「…どうしたよ?」

俺は椅子に座ったまま、首をひねって後ろを向いた。

「遊ぼ。悠理君」

期待いっぱいの眼差しで言うお嬢さんは、両手いっぱいに玩具を抱えていた。

この間の休日も使った、お嬢さんのなんちゃっておままごとセットである。

…素朴な疑問なんだけど、あんた、何で良い歳してそんなもん持ってんの?

百歩譲って持ってるのは良いとして、それを出して遊ぶってのはどうなの?

高校二年生にもなって。

「あのなぁ、あんた…」

高二だろ?俺より年上だろ?

しかも、聖青薔薇学園女子部のお嬢様だろ?

そんなお嬢様が、夕食後から寝るまでのフリータイムにやることが、おままごとって。

絶対間違ってるよ。時間の使い方を。

「?なぁに、悠理君」

「なぁにじゃなくて。勉強しろよ」

俺を見ろ。勉強してるだろ?

男子部は女子部と違って、それほど偏差値も高くないけど。

だからって気を抜いて、授業についていけなくなったら困る。

ただでさえ、俺は裏口入学なんだから。成績くらいはまともじゃないと。

別に高い目標がある訳じゃないよ。学年首位を狙っているとかじゃない。

でも、そこそこの成績くらいは維持したい。恥かかずに済むように。

その為に、空いた時間を使っては授業の予習復習な励んでいたのだが…。

「遊ぼ、悠理君」

「…」

勉強そっちのけで、おままごとに夢中のお嬢さんである。

…この間の休日に、下手に付き合ってやったのが不味かったな。

やっぱり無視すれば良かった。

一回相手してやったもんだから、遠慮なく要求してきやがる…。

「…あんた高校生だろ?新校舎のお嬢様だろ?」

「ほぇ?」

ほぇ、じゃないんだよ。

現実から目を背けるな。

「こんな時間に、遊んでる暇あるのか?授業の課題は?課題がなかったら、予習復習をしろよ」

「…」

「まだ新学期が始まったばかりとはいえ、来月の今頃には中間試験が始まるんだぞ。遊んでる余裕、ないだろ」

今のうちから、毎日勉強する習慣をつけておいた方が良いんじゃねぇの?

お嬢さんはどうやら、塾に通うとか通信教材を使うとか、そういう学校以外の学習はしていないようだし。

それは俺も同じだけどさ。

その分、自発的な勉強が大切だと思うぞ。

お嬢さんの成績が上がろうが下がろうが、俺の知ったことではない。

が、一応お嬢さんの世話係として。

赤点ばっかり取って、悲惨な成績表が無月院本家に送られるようなことになったら。

最悪、俺の監督不行き届きを責められる可能性だってある訳で。

それは困るんだよ。俺としては。

だから、遊んでないで勉強して欲しい。ちょっとくらいは。

そして、俺の勉強の邪魔をしないで欲しい。

断じて、おままごとなんかしてる場合じゃないんだよ。
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