アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…すると、お嬢さんは。

「…おままごと、駄目?」

ちょっとしょんぼりした顔で、首を傾げた。

その、俺の罪悪感を煽ってくる顔、やめてくれないだろうか。

俺が虐めたみたいじゃん。

「…駄目って訳じゃないけど…。それはまた今度な」

出来れば、もう一生しないでおきたい。

「…分かった。やめる」

おっ。

お嬢さんにしては、妙に物分かりが良い。

自分でも、この歳になっておままごとやってる場合じゃないと気づいたのかも。

そう、そうだよ。おままごとはやめて、真面目に高校生として勉強を、

「じゃあ、一緒にお絵描きしよっかー」

お嬢さんは、さっとスケッチブックとクレヨンを取り出した。

おい、それ何処に隠してたんだよ。

思わず、椅子の上でずっこけそうになった。

「違う。待て、そうじゃない」

「悠理君は、おままごとよりお絵描きの方が好きなんだね?鬼ごっことかくれんぼも嫌だって言ってたし」

違うんだよ。そういうことじゃなくて。

おままごとが嫌なんじゃないんだよ。遊び方の問題じゃないの。分かる?

…分かってないんだろうなぁ。

お嬢さんは俺の部屋にズカズカ入ってきて、無遠慮にカーペットの上に座った。

仮にも男の部屋に、ちょっとは躊躇えよ。

「じゃあ、今日は一生に絵しりとりしよー」

…勝手に決めちゃってるし。

おままごとだろうがお絵描きだろうが、付き合うなんて一言も言ってない。

「私が先ね、はい」

勝手に始めちゃってるし。絵しりとり。

つーか、俺…絵しりとりって、あんまりやった記憶ないんだけど。

しかも、お嬢さんが描いた絵。

「…何これ?…エイリアン?」

あ、でもしりとりなんだから、語尾に「ん」はつかないか。

だとしたら、この気持ち悪い生き物は何…。

「うさぎ」

と、お嬢さんが答えた。

これがうさぎなのか?

画伯お嬢さん、壊滅的に絵が下手。

そもそも、何でうさぎから始めたんだ?普通しりとりって言ったら、「り」から始めない?

それに…「ぎ」のつく言葉って何だよ?

俺、何描けば良いの?

ぎ…銀杏?は「ん」がつくし…。

ぎ…ぎっくり腰?は絵で表すのが難しいし…。

出てこないぞ。上手い言葉が。

って、俺は一体何に悩んでるんだよ。

「悠理君、早く早くー」

「ちょ、待て急かすな。今考えてるんだよ…。ぎ、ぎ、ぎのつく言葉…」

ちょっと、誰か辞書持ってきてくれ。

学校の勉強の前に、まずは。

しりとりの無茶振りをされても、困らないくらいの語彙力を身につけることを優先すべきなのかもしれない。

…あ、そうだ。ギターとかどう?

…って、俺は何を乗せられてるんだよ。
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