アンハッピー・ウエディング〜前編〜
俺がそう切り出すと、まず雛堂の反応は。

「えっ。星見の兄さんが、自分に相談?どうしたよ。なんか深刻な悩み?」

そんなにびっくりするか?俺が相談事したら。

「相談してくれても良いけど、自分、カウンセラーじゃねぇからさ。星見の兄さんが抱える重い悩みに、ちゃんとお答え出来るか分かんねぇや」

「いや…別に、そこまで深刻な悩みって訳じゃないんだけど…」

そんな身構えられると、俺も気後れしてしまうんだけど。

もっと気軽に…雑談感覚で相談に乗ってくれれば良いよ。

一方、乙無の反応は。

「ほう、悠理さん。あなたもとうとう、邪神イングレア様の眷属になる決意を固めましたか。良い心掛けです」

…こいつは何言ってんの?

「不平等な世界を正しく導くことが出来るのは、イングレア様をおいて他にいません。さぁ、悠理さんも共に邪神の眷属に、」

「ならねーよ」

そんな悩みじゃねーから。勝手に決めんな。

「つーか、あんた邪神の眷属で、食べる必要はなかったんじゃなかったのか?」

最初の頃、乙無は昼休みに昼食を痩せ我慢して、自分の席で物思いに耽っていたが。

最近の乙無は、俺や雛堂と一緒に昼食を摂っている。

と言っても、俺のような手作り弁当じゃなくて、乙無はコンビニのおにぎりやサンドイッチだけど。

「あの設定はもうやめたのか?」

「設定って何ですか。あなた方がお昼食べろって言うから、仕方なく他の人間に合わせて、必要もないのに食べてるんじゃないですか」

あー、そう。成程。

何だかんだ、空腹を我慢出来なかったんだろうな。

これから三年間、毎日昼抜きは辛いだろうからな。

「それで?邪神の眷属に立候補するんじゃなかったら、他に何の相談ですか?」

「あー、うん…それなんだけど」

まさか、本当のことを洗いざらい喋る訳にはいかないからな。

言葉を選んで相談しないと。

「実は、俺のうち…。…5、いや、6歳の女の子がいるんだけど」

勿論、お嬢さんのことである。

6歳どころか、本当は16歳である。
 
でも、中身は6歳くらいだろ?

「へぇ?星見の兄さん、妹居たんだな」

雛堂は、何やら誤解している様子。

妹じゃないんだけど…まぁ、そう思わせておけば良いか。

「妹って言うか…。まぁ、身内だな」

「ふーん。星見の兄さんは、良い兄さんになりそうだなぁ」

「それはともかく、その6歳児が、毎日一緒に遊べってせがんできて、うるさいんだよ」

「何それ。めっちゃ可愛いじゃん」

雛堂は、ぱっと顔を明るくしてそう言った。

え?

「自分ち、妹いないからなぁ。そういうの憧れるなぁ」

相談するつもりが、逆に羨ましがられてるんだが?

「憧れるって…。…鬱陶しいぞ?昨日も、俺が課題やってるのに邪魔してきて一緒に遊べって…」

「可愛いじゃん!勉強なんかしてないで、あたしと遊んで〜、ってことだろ?」

「ま、まぁ…そうだな」

「うはぁ、羨ま〜!自分もそんな可愛い妹欲しいわ〜!」

「…」

どうやったらお嬢さんの「遊ぼ」攻撃を回避出来るか、雛堂達に相談するつもりだったのに。

羨ましがられたんじゃ、解決策を考えるどころじゃないぞ。
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