アンハッピー・ウエディング〜前編〜
そうだな、分かるよ。

それが本当に妹で、本当に6歳の子供だったら。

「遊ぼう」ってせがんできたら、可愛いのかもしれないな。

でも、そうじゃないから。

身内ではあるけど妹じゃないし、大体実年齢は俺達より年上だから。

中身が6歳ってだけで。

「付き合ってやれば良いじゃん、お兄ちゃん。甘えてくれるのは、きっと今のうちだけだぞ?」

「いや…そうは言っても…。勉強時間削られるのが嫌なんだよ」

「勉強?そんなもん後回しで良いじゃん」

何言ってんだよ、あんたまで。

「今しか出来ないことを、存分にやっておくべきだと思うね。勉強なんてあんた、望まなくてもいつでも出来るだろ?」

「…あのなぁ…。勉強だって、今しか出来ないことだろ」

「あと三、四年も経ってみ?きっと、『お兄ちゃんの服と一緒に洗濯しないで』とか言い出すぜ。泣けるぞ?」

そんな、思春期の女の子みたいな。

あるのか?あと三、四年経ったらそうなるの?

「召使いの服と一緒に洗濯しないで」とか言い出すのだろうか。

今のところ、そういう未来は見えないけど…。

俺のことを召使いだと侮ってるなら、そもそも一緒に遊ぼうとは言わないよなぁ。

「付き合ってやれって、そのくらい。可愛いもんじゃん。良いなぁ〜」

「…」

雛堂は駄目だ。羨ましがられたんじゃ、相談にならない。

仕方ない。こうなったら。

「乙無…あんたはどう思う?」 

「僕ですか?」

「あぁ。お嬢さ…。…その6歳児に勉強を邪魔されないようにするには、どう…」

「…仕方ありません、悠理さん」

…あ?

乙無は真面目な顔をして、俺の目をじっと見た。

「この世界は、いつだって不平等ですから。人類に分配される幸福と不幸の天秤は、決して釣り合わない。納得の出来ない理不尽なことの方が、遥かにたくさんあるんです」

「は、はぁ…」

「故に、この不平等な世界を正す為に…僕は、邪神の眷属になったのです」

「…」

…何の話?

俺の相談事のつもりだったんだけど?

「不平等な世界を変えたいと望むなら、さぁ、あなたも今すぐ立ち上がり、邪神イングレア様の忠実なる下僕として、」

「誰がなるか」

「な!?邪神の眷属になるという、人類最大の栄誉を…!」

何が栄誉だよ。俺はあんたの中二病設定に巻き込まれるのは御免だ。

畜生。まともに相談出来る奴がいねぇ。
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