アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「で、いつもお姉ちゃんと何処に遊びに行ってんの?カラオケとか?ショッピングとか?」

「いや、その…」

まさか、おままごととか絵しりとりして遊んでます、とも言えず。

カラオケ…ショッピング…ねぇ。

あのお嬢さん、そういうところに興味あんのかね…?

「どっちかというと…家の中で過ごす方が好きみたいだな」

「インドアなお姉ちゃんなんだな」

ただ世間知らずだから、出不精なだけだと思うけど。

「はーん、成程。普段インドアだから、何処に連れて行ってあげれば良いのか分かんねぇんだな?」

「…まぁ、そうだな」

俺は、勉強を邪魔されない為に相談したかったのに。

いつの間にか、お嬢さんと何処に遊びに行くか、みたいな相談になってる。

違うっての。

でも…考えようによっては、それもアリかもしれない。

お嬢さんの遊びに付き合わされる運命が変わらないなら、せめておままごとや絵しりとりからは卒業したい。

「家の中で…テレビゲームとか?」

「…テレビゲームじゃないけど、まぁ…ゲームとかな」 

間違い探しをゲームだと言うなら。

「ふむ、それじゃあ…手っ取り早く、何か美味しいもの食べに行ったら?」

「…美味しいもの…?」

「そりゃあ、女の子っつったらスイーツだよ。スイーツ食べに行っとけば間違いないって」

…スイーツねぇ。

「女性が皆甘いもの好きだと思ったら、それは浅はかなのでは…?甘いものが好きじゃない女性もいるでしょう」

と、眉をひそめる乙無。

正論だな。

うちのお嬢さんって…果たして、甘いもの好きなんだろうか?

カップ麺が好きなのは知ってるが。

あ、でもケーキ買いに行ってたっけ…。

「あとは…映画館とか?」

「…姉弟で映画館って普通なんですか?恋人じゃあるまいに」

「仲良かったら行くんじゃねぇの?」

映画館…どころか、テレビ観てるところもあんまり見ないな。うちのお嬢さんは。

「それから…ゲームやるのが好きなお姉ちゃんなら、ゲームセンター行ったらハマるんじゃね?」

「…ゲームセンターね…」

似合わねぇな。無月院家のお嬢様がゲームセンターって。

多分、生まれてから一度も行ったことないんじゃないかな。

「乙無の兄さん、なんか良い案ないの?」

「…僕に聞くんですか…?人間のことを聞かれても、僕はとっくの昔に人間やめてますから」

「まぁまぁ、そう言わず。星見の兄さんとこの姉弟仲を守る為だと思って」

気持ちは嬉しいけど、姉弟ではない。

「そうですね…。出不精な方なら、無理に外出しなくても…。家の中で一緒に料理を作るとか…」

あのお嬢さんと、一緒に料理?

無理。見た目は16歳だけど、中身は6歳児だということを忘れるな。

それに、仮にも無月院のお嬢様に、家事の真似事をさせる訳にも行かず。

「映画館まで行かなくても、レンタルビデオ店でDVDでも借りてきて、家で観れば良いんじゃないですか」

「…成程…」

映画館に行くより敷居が低いかもな。

この辺、レンタルビデオショップって何処にあるんだろうな。

「分かった…相談してみるよ。お嬢さんが映画好きなら良いんだけどな…」

と、うっかり口を滑らせたのが間違いだった。
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