アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…めっちゃ食ってんぞ。

「もぐもぐ。美味しいね、これ。もぐもぐ」

「あ、そう…」

食べてもらえなかったらどうしよう、と心配していた一時間前の自分に言いたい。

全然心配要らない。めちゃくちゃ食ってるから。

もうちょっと落ち着いて食べてくれ。

しかし、自分の作ったものを「美味しい」と言いながら食べてもらえると、悪い気はしないな。

「スープもあるんだけど、食べるか?」

「うん、食べるー」

「良かった」

器がなくて汁椀に入れてるけど、まぁ今日くらいは気にせずに食べてくれ。

と、わざわざ言わなくても、お嬢さんは全く気にせずにスープを啜っていた。

なかなか清々しいお嬢さんだ。

じゃ、俺も食べるかな。

…一緒に食べて良いよな?

召使いと一緒に食事なんて出来るか、と眉をひそめられたら…。

しかし、お嬢さんはそんなこと、全く気にする様子はなく。

俺が向かいに座っても、こちらを一瞥することさえしなかった。

それより、目の前のオムライスに夢中らしい。

気に入ってもらえたようで良かった。

「ふー、美味しかった」

お嬢さんはあっという間に、オムライスもコンソメスープも完食してしまった。

お粗末様でした。

カップ麺しか食べられないって訳じゃないんだな。安心したよ。

「こんな美味しいオムライス食べたの、初めてだよ」

べた褒めなんだけど。なんかむず痒いな。

しかし。

「何処のメーカーなの?これ」

と、お嬢さんは聞いてきた。

メーカー…って。

…もしかしてこれ、レトルトか冷食だと思ってる?

「…これ、俺の手作りだぞ」

「えっ」
 
「手作り。チキンライス作って、卵焼いて巻いたんだよ」

「…」

ずっとぽやんとした顔をしていたのに。

これが手作りだと聞いて、お嬢さんは初めて驚いた顔を見せた。

「…君が作ったの?これ」

「あぁ」

「ご飯から?卵作って?」

「いや、米と卵はさすがにスーパーで買ってきたけど…。ちゃんと食材から作ったよ」

さすがにな?稲作と養鶏は無理だよ、俺。

「…ほぇー」

どうやら、感心しているらしい。

お褒めに預かり光栄…ってところだな。

オムライスくらいで喜んでくれる、単純な人で良かった。
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