アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…俺はお嬢さんの召使いであって、花婿であって。

平民生まれの俺は、お嬢さんに相応しくないのかもしれない。

でも。

「俺で良かったら、俺はあんたの友達になるよ」

それを許してくれるなら。

僭越ながら、俺がお嬢さんの友達になろう。

「えっ…」

目を真ん丸にするお嬢さん。

そんなびっくりするなよ。意外だったか?

「俺じゃ不満か?やっぱり、あんたの友達に相応しくないか?」

お嬢さんは、激しくぶんぶんと首を横に振った。

よし、それなら良い。

「じゃあ、友達になろう」

「…良いの?」

「良いよ」

別に同情の気持ちからではない。お嬢さんを憐れんだからでもない。

ただ、分かっただけだよ。

無月院家のご令嬢と言えども、普通の女の子と変わりないんだなってことが。

「…」

お嬢さんの表情が、パッと明るくなった。

めっちゃ嬉しそう。

「お友達。初めて出来た、お友達」

「そうか。良かったな」

「あと99人いれば、皆で富士山に登れるね」

そんな野望があったのか?

果てしなく遠い夢だぞ、それは。

まぁ、でも。

千里の道も一歩から、って言うもんな。

とりあえずお嬢さんは今日、その一歩を踏み出したのだ。

素直に、そのことを祝福しようじゃないか。

「じゃあ、じゃあ、お友達なら、一緒に遊んでくれる?」

うっ。

一緒に遊べ…って、それはまたおままごととか、お絵描きとか。

その、片手に持ってる自由帳の迷路や間違い探しに付き合えってことだよな?

…正直、そんな子供っぽい遊びに付き合うなんて冗談じゃないと思っていたが…。

でも、それに付き合ってあげるのが友達ってもんだろ?

「上等だ。付き合ってやるよ」

「本当?本当に?」

「あぁ、本当に」

「やったー」

両手を上げて万歳していた。

俺が友達になってくれたことが、余程嬉しいらしい。

こういうところ、素直なんだよなぁ…。

「じゃあね、これ迷路。迷路やってみて。あと他にも遊びたいことがあるんだ。自分でね、人生ゲーム作ろうって思って」

あれこれ、と思いつく遊びをいくつも並べ始めた。

「でも、悠理君と一緒に作った方が面白いかな。それからそれから、パズルを一緒にして、積み木でお城を作って…」

出るわ出るわ、お嬢さんの頭の中のやりたいことリストの項目が、これでもかと。

全部幼稚園児みたいな遊びだけど、それはまぁ…ご愛嬌ってことで。

「それから、公園の砂場で遊びたい」

「…それは遠慮してくれないか?」

さすがに、高校生二人が公園の砂場で遊ぶのは…近所の人に見られたら、恥ずかしかった。
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