アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「そうなんだ、凄いね」

「そうでもねぇよ」

品数も少ないし、人によっては手抜きと言われても言い返せない。

「こんなに美味しい冷凍オムライスがあるなら、箱で買って毎日食べようかと思ったよ」

「…毎日はやめろよ…」

偏るぞ、栄養が。

カップ麺よりはマシかもしれないけども。

「人の作った料理なんて食べるの、いつ
以来…。…ん?」

ん?

そのときになってお嬢さんはようやく、俺の方を向いてじっと見つめ。

「…誰?」

と、聞いた。

…今?今聞く?それ。

俺、もう何時間も前からここに居るんだけど。

気づいたのは今なのか?

普通、寝てる間に知らない人間が家に上がってたら、もっとびっくりするもんだろ。

せめて、晩飯を食う前に気づけ。

こういうところが、頭が足りないと言われる由縁なのかもしれない。知らんけど。

「今日来るって伝えてあっただろ?…星見悠理(ほしみ ゆうり)だ」

今日から一緒に暮らすパートナーだよ。覚えとけ。

「星見、星見…悠理君?」

お嬢さんは、何度か俺の名前を繰り返した。

「名字でも名前でも、好きな方で呼んでくれ」

「じゃあ、悠理君って呼んでも良い?」

「どうぞ」

…よく考えたら、俺、婿入りする立場だから。

名字は無月院を名乗るべきなのか?

正直、あまりその名前を名乗りたくはないのだが…。

「悠理君は、何でここに居るの?」

「俺が聞きてぇよ、そんなの…。無月院本家の当主に、つまりお前の祖父さんに命令されたからだ」

「あ、もしかして、君がお婿さん?」

そう呼ばれるのは、大変不本意だが…。

「そうだよ」

「…そっか。君が次の…」

「は?」

次?

「ううん、何でもない」

…あ、そう。

まぁ、深く追及する気はないけど。

「…ん?」

するとお嬢さんは、また別のことに気がついたらしい。

「…今度は何だよ?」

「…!部屋が綺麗になってる」

…それに気づいたのも、今なのか?

おっそ…。

「床を歩いてもペットボトルに躓かないから、おかしいなーとは思ってたんだけど…」

床を歩いてペットボトルに躓くのが当たり前って、そっちの方がおかしいだろ。

俺はそんな散らかった部屋に住むの、絶対御免だからな。

「君が掃除してくれたの?」

「そうだよ。めちゃくちゃ散らかってたからな」

「そっか…。悠理君凄いね。ゴッドハンドだ」

そんなキラキラした目で見られても。

普通に掃除しただけだよ。

なんか、いまいちこう…調子狂うな。

もっと、話の通じない相手かと思ってたんだが…。
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