アンハッピー・ウエディング〜前編〜
キッチン用品売り場を後にした俺達は。

「さて、次はどうするかな…」

「悠理君、他に何が欲しいの?」

フライパンは買ったからな。

次は日用品と…あとは食料品も見たいのだが。

それは後回しにしよう。荷物が増えるから。

「俺のことより、あんたは何か欲しい物ないのか?」

「ふぇ?」

折角来たんだから、寿々花さんも何か買っていけば良いのに。

何か欲しい物ないのか。

「そうだな。欲しい物かー…」

洋服はこの間買ったしな。

あ、そうだ。寝間着を買ったらどうだ?

この人、未だに俺のお古ジャージを着て寝てるから。

これを機にパジャマでも買って、いい加減俺のジャージは捨てるべきだ。

「寿々花さん、あんた寝るときに着るものを…」

買ったら良いんじゃないか、と言おうとしたら。

その前に。

「あ!見て見て、悠理君」

寿々花さんが、売り場の前で足を止めた。

…玩具売り場の前で。

「わーい。おもちゃだー」

…高校生が、玩具売り場ではしゃぐな。

売り場を見ている、ちっちゃい子供に混じって。

寿々花さんも玩具売り場に駆けていった。

おい、待てって。

「キラキラしてて可愛いね。あ、見てほら。ミカちゃん人形売ってる」

女の子なら誰もが(?)一度は遊んだことがある、有名な着せ替え人形だな。

まだ売ってたのか、これ…。しかも、結構種類豊富なのな。

「こっちは…ぬいぐるみの猫ちゃんだって。喋るんだって。凄いね」

「あ、そう…」

俺まで巻き込まれて、玩具売り場に入り込んでいるんだが。

出たい。めっちゃ出たい。

女性用の下着売り場に迷い込んでるような、そんな気恥ずかしさがある。

小さい子供に混じって、俺は一体何を見せられてるんだ。

「あのな、ここは小さい子供向けの玩具売り場なんだよ。断じて高校生が入り込んで良い領域じゃな、」

「悠理君。私、玩具欲しい。玩具買ってー」

…幼稚園児か何か?

でも…一緒に遊んであげるって、約束したしなぁ。

結局。

「…一個だけだぞ」

と、言う他にどうしようもなかった。

「わーい」

寿々花さんは喜んで、玩具売り場を物色し始めた。

よくもまぁ、幼児に混じって玩具を選べるもんだ。

俺は気恥ずかしくて耐えられないから、向こうで待ってて良いかな?

…しかし。

「悠理君、どれが良いと思う?」

めっちゃ楽しそうに、俺に意見を求めてくるもんだから。

俺だけ向こうで待ってて良いか、とは聞けなかった。

畜生…。付き合うしかないというのか。またしても。
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