アンハッピー・ウエディング〜前編〜
めちゃくちゃ行列は長かったけど、幸い、店の回転率はそこそこ高かったようで。

人が多い割には、意外とすんなり順番が回ってきた。
 
これは嬉しい誤算。

…だったが。

店の中に入ってみて、色々と後悔した。

この店、店名が『メルヘン・スイート』なだけあって。

店内の装飾も、アイスクリームのフレーバーも、メルヘン一色であった。

寿々花さんは案の定、10段重ねを注文しようとするし。

慌てて止めて、3段で我慢させた。

10段って、一人では絶対食べ切れねぇよ。

最後の方、溶けてジュースみたいになるんじゃないの?

3段重ねでも、一個がかなり大きいので、非常にボリュームがある。

周囲のお客を見たら、多くの人が注文したアイスクリームをスマホで撮影していた。

確かに、カラフルで色とりどりで可愛いし、アイスクリームを入れたカップも洒落たピンク色だし。

成程、これほど行列が出来ている理由はこれか…。

店の中も外もお客でいっぱいだし、店内はメルヘンだし。
 
何なら、うちの寿々花さんの頭の中もお花畑だし。

注文したアイスクリームを受け取ると、店内ではなく店の外に出て食べることにした。

「もぐもぐ。アイス美味しいね、悠理君」

「そうだな」

見た目が華やかなだけで、味はそうでもないかと思ったのだが…。

そんなことはなかった。味もちゃんと美味しい。

ちょっと甘過ぎるような気がしなくもないが…。まぁ、たまには良いか。

「悠理君、それ美味しい?」

「ん?美味しいよ」

俺が選んだのは、キャラメル味のフレーバーと、ストロベリーのフレーバーだ。 

え?女の子みたいだって?

うるせぇ。偏見だ。

「ちょっと味見させて」

寿々花さんは、自分のアイスを食べているスプーンをそのまま、俺のカップのアイスに突っ込んできた。

「良いけど…。ちょ、スプーンそのまま突っ込んでくるのかよ」

「?」

「…気にしてないなら良いよ」

あんた、あれか。他人が口をつけたペットボトルでも、平気で飲めるタイプ?

気にする人は気にするだろうし、気にしない人はこの通り、全く気にしていない。

って言うか、多分気づいてさえいない。

「うん。悠理君のアイスも美味しいね」

「良かったな」

一方、寿々花さんの選んだアイスのフレーバーはと言うと…。

「寿々花さんのそれは…?」

「これ?一番下がホワイトチョコで、真ん中がミルクチョコで…一番上がチョコ」

「…全部チョコじゃん」

あんなに色々な種類のフレーバーがあったのに、全部チョコ味を選んだのか?

何だか勿体ないような気がするが…。折角なら、色んな味のフレーバーを選べば良かったのに。
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