アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「寿々花さんって、チョコ好きだったのか」

前も、チョコケーキ買いに行ってたもんな。

チョコレートが好きとは、結構可愛いところもあるじゃないか。

…と、思ったが。

「チョコが好きって言うか…。夢の中によく出てくる人が、凄くチョコが好きでね、いつも食べてるの」

…夢?

「引き出しの中がチョコでいっぱいで、冷蔵庫の中もチョコでいっぱいで、会う人皆にチョコを配って回って…」

「…」

「その人の信条は、『皆でチョコを食べれば世界は平和になる』なんだって」

「…安っぽい世界だな…」

チョコレートに可能性を見出し過ぎだろ。

確かにチョコは美味しいけども、それで世界を平和にするのは…無理なのでは?

引き出しの中も冷蔵庫の中もチョコでいっぱい…。そりゃとんでもないチョコ狂だ。

「その人がいつも、夢の中で美味しそうにチョコレートを食べてるから…。美味しそうだなーと思って」

「成程…」

それで、その夢に影響されて、寿々花さんもチョコ味を選んでるんだな。

それは別に構わないけど…。

「夢じゃなくても、あんたの好きな味を選べば良いんだぞ」

「好きな味…?」

「なんかあるんじゃねぇの?好きな食べ物」

「うーん。めるちゃん製麺バター醤油味が好き」

前も言ってたな、それ。

でも、そうじゃないんだよ。それは袋麺であって。

「あと、悠理君のオムライスが好きだよ」

それも言ってたな。

でも、それも違うんだよなぁ。

普通お嬢様って言ったらさぁ…。優雅な紅茶とかケーキとか…。

…まぁ、それは俺の勝手な思い込みか。

お嬢様って言っても人間なんだし、お嬢様が皆高価な食べ物や飲み物が好きとは限らないよな。

…だからって、一番好きなものがめるちゃん製麺…はどうかと思うが。

…それはそれとして。

「…ちゃんと口を拭けよ」

「?」

溶けたアイスが、口元や指にあちこちくっついてる。

あーあ…。べたべただよ、もう…。

食べるの下手くそか。

「ちょっと、手ぇ洗ってこい。荷物持っててやるから」

溶けたアイスクリームを身体中にべたべたくっつけたままじゃ、格好がつかないだろ。

「はぐれないように、ここで待ってるから」

「うん、分かったー」

寿々花さんは、てこてこ歩いて溶けたアイスを洗いに行った。

よし、行ってこい…って、送り出したのは良いけど。

俺、ついていかなくて大丈夫だよな?

さすがに手を洗いに行くくらい、一人で出来るだろう…多分。

俺は寿々花さんが買ったばかりの、おままごとセットを抱えて。

寿々花さんが戻ってくるまで、しばらく待っていることにした。



…すると、そのとき。

「あれっ?どっかで見覚えあると思ったら…星見の兄さんじゃないか」

「え?」

突然呼ばれて、顔を上げると。

そこには、私服姿の雛堂がいた。
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