アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…ともかく、俺の存在をようやく認識してくれたので。

「俺と一緒に住むのは、あんたには不本意かもしれないが…」

と、俺は前置きした。

俺だって不本意なんだからな。

「あんたの祖父さんの決めたことだ。文句言ったって、お互い逆らえないんだから…せめて、いがみ合わずに生活しよう」

家庭内で毎日喧嘩や言い争いをするなんて、考えただけでうんざりする。

「名目上は結婚だが、俺にはそんな気はないし、それはあんたもそうだろ?」

別に、俺に対して恋愛感情があるから、一緒に暮らすんじゃない。だろ?

俺だってそうだ。

お互い、あくまで命令されたからここに居るのだ。

「…うん」

お嬢さんも、こくりと頷いた。

だよな?

「だったら、お互いルームメイトと割り切って生活しようぜ。婿養子の立場として、あんたの身の回りのことくらいは責任持ってやるから」

それが俺の役目なんだし、その役目はきちんと果たすよ。

だが、それ以上の干渉はナシだ。

そう割り切った方が、お互い楽だろ?

下手に近寄ろうとして、関係が拗れるより。

最初からしっかり線引きして、お互い深くは踏み込まないように徹底するべきだ。

そうすれば、少なくともいがみ合うことはないだろう。多分。

このお嬢さんが、余程性格が悪くない限りは。

お互いにルームメイトだと割り切れば、何とかやっていける。と思う。

ってか、そうでなきゃ困る。

「それで良いよな?」

「…うん。良いよ」

「よし」

じゃ、そういうことで。

良かった。

初日の今日に、そこのところ、一番大切なことを確認出来て。

…あ、そうだ。確認事項は他にも。

「そういや、俺はどの部屋で寝泊まりしたら良いんだ?」

勝手に、部屋の中に荷物運んじゃ悪いと思って。

持ってきた俺の荷物は、まだ廊下に置きっぱなしだ。

今夜はもう遅いし、疲れたから、家具を動かしたりはしないが。

出来れば、最低限身の回りの服や小物くらいは、今夜中に荷解きしておきたい。

そこらの物置きにでも住んでろ、って言われるならそれでも良いよ。

この家広いから。物置きも広いだろ。

しかし。

「何処でも良いよ?空いてる部屋いっぱいあるから」

とのこと。

まぁ、これだけ広けりゃ…部屋には困ってないだろうなぁ。

「二階の、私の向かいの部屋が寝室だよ。おっきなベッドがあるよ」

備え付けのってことか?

二階ね…。

でも、お嬢さんの部屋の向かいなんだろ?

「いや、遠慮しておくよ」

さすがに、お嬢さんの向かいの部屋に寝るのはな。

気を遣いそうだから、それはやめておく。
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