アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…ともかく。

「毎日40分近くも掃除させられるとか、冗談じゃねぇぞ全く。自分は掃除のプロになる為に高校に来た訳じゃねぇんだぞ」

ぶつぶつ、と文句を言う雛堂。

やめとけって。先生達に聞かれたら面倒だぞ。

…だが、雛堂の言いたいことはよく分かる。

「仕方ないだろ?ただでさえ、男子部は人数が少ないから…」

クラス皆で分担しても、掃除する場所はたくさんある。

「そうじゃねぇんだよ、星見の兄さん。自分の言いたいことは」

真面目な顔で、雛堂はこちらをじっと見つめた。

「…分かってるよ」

雛堂の言いたいことはそういうことじゃない。だろ?

俺だって最初に聞いたとき…担任の教師から「ここを掃除してくれ」と頼まれたときは、耳を疑ったよ。

俺達が今掃除しているのは、校舎の廊下と窓だ。

廊下を隅から隅まで掃いて、拭いて、窓拭きをする。

3人でワンフロア、全部やるんだぞ。気の遠くなる作業だよな。

でも、これだけ聞くと、何もおかしなことはない。廊下と窓の掃除なんて、どの学校でもやってるだろう?

中学の時も散々やったよ。

何なら、家でもやってる。

問題は、この場所が男子部の通っている旧校舎…ではなく。

普段俺達が立ち寄ることを許されない、女子部の新校舎であるという点だ。

「…何で、自分らが新校舎の掃除せにゃならんのだ…!?」

「…言うな、雛堂」 

考えないようにしてたんだからさ。いちいち思い出させないでくれ。

俺だって嫌だよ。

何が楽しくて、自分の校舎でもない新校舎の廊下掃除と窓拭きをしなきゃならないのか。

入学直後の三日間の大掃除の時も、同じことを思ったよな。

あれほど酷いことはないと思ってたけど、余裕でもっと酷いことがあった。

まさか、旧校舎のみならず新校舎の掃除までさせられるとは。

最初に担任の先生から聞いたときは、雛堂と同じことを思ったよ。

「何で俺達が?」って。

そりゃそうだろ。俺達男子部の生徒が使っているのは旧校舎であって。

だから、旧校舎の掃除をするのは分かるよ。いつも使ってる場所を掃除するのは、使ってる者の役目だからな。

それなのに、俺達が今掃除しているのは新校舎である。

普段から、いつも新校舎の設備を使わせてもらってるから、そのお礼…ってんなら、まだ分かるよ?

でも、俺達が入学して数週間。

新校舎の教室を使わせてもらったことは、一度もない。

聞くところによると、パソコン室や図書室を使わせてもらう機会があるらしいが。

それは本当に稀なことで、そうしょっちゅう機会がある訳じゃないらしい。

なら、何で俺達が新校舎の掃除なんかしなきゃならないんだよ。

「自分らの校舎くらい、自分らで掃除しろや」

雛堂の言う通りである。

自分達が使って、自分達が汚した場所なら。

自分達が毎日掃除して、綺麗にしろよ。それが筋ってもんだろ?

それなのに、何故そこを俺達が掃除させられているのか…意味が分からない。
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