アンハッピー・ウエディング〜前編〜
すると、文句を言いまくる俺と雛堂に嫌気が差したのか。

「仕方ないでしょう。お偉い新校舎の生徒達は、僕達と違って掃除の時間がないんですから」

と、乙無が口を開いた。

…そう。そうなのだ。

そうらしいのだ。俺も入学して初めて知ったんだけど。

どの学校にも、掃除の時間ってのはあるもんだと思ってたが。

聖青薔薇学園女子部には、昔から掃除の時間がないらしい。

男子部はあるのにな。不公平だ。

尊いお嬢様方には、掃除なんて召使いの真似事はさせられないってことなのだろう。

男子部の生徒が、毎日40分近くも掃除させられるのも。

旧校舎に加え、新校舎の掃除までさせられているのも、そのせいだ。

俺達がやらなかったら、新校舎の掃除をする人間がいないから。

それで、男子部の生徒が女子部の生徒の代わりに、こうやって毎日掃除してやってんの。

酷い話だと思わないか?

じゃあ、男子部の生徒が汗水垂らして掃除している間。

女子部の生徒は、何をやってるのかって?

授業だよ。

女子部のカリキュラムは、男子部のそれとは大きく異なっている。

お偉い女子部の生徒は、男子部よりも授業のコマ数が多いらしい。

だから、俺達がこうして掃除している間、女子部の生徒は授業をしているらしい。

授業と掃除どっちが良い?って聞かれたら、そりゃ掃除の方がマシかもしれないけどさ…。

でもだからって、普段、使いもしない…どころか。

足を踏み入れることさえ許されない新校舎に、ただ掃除の為に通うのは…気分の良いものじゃないぞ。

「ちくしょー…。女子共め、自分らのこと掃除夫だとでも思ってんだぜ」

「…だろうな…」

実際俺達が廊下で掃除しているところに、女子生徒とすれ違うことが何回かあったけど。

大抵の女子生徒は、こちらをちらりとも見ようとしない。

召使いのやってることなど、いちいち目を配る必要もないのだろう。

あるいはこちらを見て、「ご苦労様です」と挨拶する女子生徒もいる。

無視されるよりマシなのかもしれないが。

これはこれで傷つくぞ。

完全に、召使いを労うお嬢様じゃないか。

ご苦労様じゃねーよ。自分らも掃除くらいしろ。

…でも。

「新校舎と旧校舎の差別は、今に始まったことじゃないでしょう」

乙無は、達観したようにそう言った。

…そうなんだよなぁ。

入学式の時点で、めちゃくちゃ差別されてたもんな。

男子部と女子部の差別は、今に始まったことではない…。

それは分かってるけど、小学校の時も中学校の時も、男子生徒と女子生徒は皆平等に扱われてきたから。

高校になって、いきなりこの男女差別じゃあな。

やっぱり…こればかりは、未だに慣れないよ。
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