アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「この学園に限らず、世の中は不平等なものです。不平等なのが世界の理と言って良いくらいです」

「乙無…」

「…故に、世界からこのような不平等をなくす為に、僕達邪神の眷属が生まれたんです」

あっ。また始まった。

いつものアレな。はいはい。

「邪神イングレア様の前に、全ての命は平等です。あの方こそ、真に世界を平等にし得るお力を持っています。大也さん、悠理さん。あなた方も邪神イングレア様に忠誠を誓い、偉大なる邪神の眷属に…」

「あー、はいはい。また今度なー」

「ちょっと。真面目に聞いてくださいよ」

その話、もう何回目だよ。

真面目に聞く気も失せるわ。

「なぁなぁ、そんなことよりさー」

「そんなことって何ですか。大事なことじゃないですか」

はいはい、分かったから。

「もうすぐゴールデンウィークだよな」

期待いっぱいの表情で、わくわくと雛堂が言った。

ついさっきまで、新校舎を掃除させられてることにぶつぶつ文句言ってたのに。

ゴールデンウィークの話をするときは、顔が輝くんだから。

全く現金な奴だよ。

そんなに嬉しそうに語るってことは…。

「何処か出掛ける予定があるのか?」

旅行とか?観光とか?

それとも、遊びにでも行くのだろうか。

…と、思ったのだが。

「ううん、全く予定無し」

…ないのかよ。

「予定無いのに、そんなに楽しみなのか…?」

「そりゃー楽しみだよ。チビ共は遊園地かどっかに連れてってもらうって行ってたけど、自分は興味ねーし。それよりチビ共のいない間、テレビを独り占め出来るのが嬉しいね」

成程ねぇ。

雛堂にとっては、リラックスタイムな訳か。

「ここぞとばかりにレンタル屋でDVD借りて、ひたすら観るつもりなんだ」

「そうか…。楽しみだな」

「だろ?星見の兄さんと乙無の兄さんは?ゴールデンウィーク、なんか予定あんの?」

ゴールデンウィークの予定…?

雛堂に言われて、初めてそんなこと考えた。

ゴールデンウィークねぇ…。

「今のところ…特に予定はないな」

出掛ける予定もないし…。多分、いつもの週末みたいに過ごすんじゃないか?

実家に帰る予定もない。

召使いの身で、自分の都合で勝手に家を留守にする訳にはいかないからな。

大人しく家にいて、家事に明け暮れる毎日を過ごしますよ。

…でも、寿々花さんはどうだろうな?

あの人、ゴールデンウィークに予定はあるのだろうか。

「何処も遊びに行かねぇの?」

「うん…。多分、行かないんじゃないかな…」

今のところ、全くその予定はない。

何処に行っても、ゴールデンウィークじゃあ人が多いだろうしな。

「乙無の兄さんは?どっか旅行とか行くのか?」

「いいえ。邪神の眷属に休みなどありません。イングレア様の為、罪の器を満たす為に時間を有効に使います」

「ふーん」

つまり、乙無も暇ってことだな。

ゴールデンウィークに何の予定もない、野郎三人組。

…我ながら、ぱっとしないなぁ。
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