アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「いっそのこと、二世帯住宅みたいに…生活する場所を分けようぜ」

「ふぇ?」

きょとん、と首を傾げるお嬢さん。

えーと、だから…。

「この家、一階にも二階にもバスルームがあるだろ?」

「うん」

さっき家の中を掃除するとき、二階にも上がってみたが。

一階にも二階にも、立派なバスルームが備え付けられていた。

いやぁ、びっくりだよ。

バスルームが家の中に複数ある。これだけで俺の基準では大邸宅だ。

貧乏性でごめんな。

家族が五人も六人もいる大家族なら、バスルームが複数必要かもしれないが。

たった二人で暮らすのに、バスルーム二つも要らないだろう。

だが、今回ばかりは助かった。

一つ屋根の下、年頃の男女が二人だけで同棲して。

バスルームが一つしかないと来たら、お互い…と言うか。

俺が、一方的にめちゃくちゃ気を遣うことになるのは目に見えている。

しかし、バスルームが二つあるなら、話は早い。

どちらかを片方専用にしてしまえば、気まずい空気で鉢合わせする危険もない。

「一階か二階、好きな方をどちらか専用にするんだよ。あんたはどっちが良い?」

不便かもしれないが、こればかりは同意してもらいたい。 

気まずいトラブルを避ける為にもな。

「…どっちでも…良いけど」

そうか。

そうだな、じゃあ…。

俺もどっちでも良いんだけど…。
 
「あんたの部屋と寝室は、二階なんだよな?」

「うん」

「じゃあ、あんたは二階を使ってくれるか。俺は一階にするよ」

一階の空き部屋…確か、玄関入ってすぐのところに部屋があった。
 
あそこで寝起きしよう。

主に俺が使うことになるであろうキッチンも、一階だしな。

「ダイニングとかリビングとか、一階にしかない部屋は、勿論あんたも自由に使って良い。俺も掃除とか、必要なときは二階に上がらせてもらうことになるだろうし…」

「…」

「でも、それ以外の必要ないときは、お互い一階と二階で分かれて生活する。これで良いよな?」

いわゆる、家庭内別居という奴だな。

望んで一緒になった訳じゃないのだ。

つかず離れず、このくらいの距離感がベストだろう。

俺だって、四六時中気を遣いっぱなしはしんどいし。

「…ん」

お嬢さんは、小さくこくり、と頷いた。

…何だか、反応薄くね?

ちゃんと分かってるよな?大丈夫だよな?

…頷いたんだから、多分大丈夫だろう。
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