アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「じゃあ、そういうことで…。何か頼みたいことがあったり、用事があったら何でも言ってくれ」

その為に、俺はわざわざここに連れてこられたんだろうからな。

無月院家の婿養子としての役目…召使いの仕事も、ちゃんとやるよ。

「用…用はない、けど」

と、お嬢さんは言った。

「けど、何だよ?」

「悠理君は、何で私の…」

…?

「…あ、いや何でもない」

…何だよ。

途中で引っ込められると、余計気になるだろ。

「何だ?遠慮しないで言えよ」

分家のみそっかす相手に、遠慮する必要はないだろ。

「ううん、何でもない」

そう言って、お嬢さんは席から立ち上がった。

あ、そう…。

…まぁ良いや。言いたくなったら言ってくれ。

言いたくないなら、無理には聞かないよ。

お互い踏み込まない方が良いって、さっき言ったばかりだしな。

「ふわぁぁ…。お腹いっぱいになったら、何だか眠くなってきちゃった…」

マジかよ。

あんた、あれだけ寝ておいて…?

「寝過ぎだろ…昼からずっと寝てたのに」

「ずっとじゃないよ?何回か目が覚めて、誰か居るなぁとは思ってたんだけど…。また寝ちゃった」

起きてたのかよ。

何回か起きたんなら、そのとき声かけてこいよな。

何でそのまま寝るんだ。意味分からん。

「つーか、寝るなら風呂入ってから…自分の寝室で寝ろよ」

二階だぞ、二階。さっきそう決めたからな。

「うーん…。おやすみー」

「…おやすみ…」

お嬢さんは大きなあくびを隠さずに、ひょこひょこと二階に上がっていった。

…大丈夫か?あれ…。

大丈夫じゃなくても、俺にはどうすることも出来ないんだが…。

せめて、最低限自分の面倒くらいは、自分で見てもらいたいものだ。

一応話は通じるみたいだから、それで良しとしよう。
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