アンハッピー・ウエディング〜前編〜
俺の部屋の中が…何だか荒らされてるんだけど。

クローゼットの中身がひっくり返され、押し入れにしまっていたはずの布団まで引っ張り出されている。

…この部屋だけ、強盗入った?
 
俺は、思わずその場に立ち尽くしてしまった。

「悠理君、悠理君あのね」

そんな俺の後ろから、ちょっと距離を取って(俺が臭いせいだと思われる)。

寿々花さんが、はしゃいだ声で言った。

「私、ちゃんと良い子にお留守番してたんだよ。頑張ったの。寂しかったけど。でも頑張ってお留守番したんだー」

得意げに、えっへんと言わんばかり。

高校生なら留守番くらい出来て当たり前だろ、と言いたくなるところだったが。

それよりも。

「…なぁ、寿々花さん。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「お絵描きしながら待ってたんだよ。悠理君の似顔絵描いたの。ほら、見て」

俺の質問を先に聞いてくれって。

寿々花さんは、自慢げにスケッチブックを見せつけてきた。

それ、俺の似顔絵なの?

さっき借りてきた、ゾンビ映画のゾンビにそっくりなんだが?

いや、そんなことよりも。

「分かった、似顔絵は分かったから」

「上手く描けたから、これリビングに飾って良い?」

「…」

それ、上手く描けたうちに入るの?

まぁ良いよ、別に。好きなようにしてくれ。

それよりも、俺の話を聞いてくれ。

「何でこの部屋、こんな荒らされてんの?」

「ほぇ?」

ほぇ、じゃないんだよ。ほぇ、じゃ。

「あんた、もしかしてこの部屋…入った?」

寿々花さんが犯人じゃなかったら、多分俺の留守中に強盗入ってるから。
 
そのときは警察呼ぼう。

しかし。

「うん、入ったよ」

強盗犯は目の前にいた。

あんたが犯人かよ。

「何で?別に金目の物は何もないだろ」

「かねめ?」

「何で勝手に入ったんだ?」
 
「悠理君の服が欲しかったから」

…はぁ?

犯行動機が全然分からないんだが。

「お留守番してたら、何だか退屈になったから」

「…」

「家の中を探検しようと思って、悠理君の部屋を探検したの」

するなよ。

「そしたら悠理君のお洋服を見つけて、嗅いでみたら、悠理君の匂いがしたから」

嗅ぐなよ。

「悠理君の服を着て、しばらく一緒にお昼寝してたんだ」

寝るなよ。

「それだけだよ。他には何もしてないから、安心して」

全く安心出来ないんだけど?

あんたは、飼い主に置いていかれた子犬かよ。
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