アンハッピー・ウエディング〜前編〜
入念にシャワーを浴び、にんにく臭い服を着替えた…ものの。

心なしか、まだにんにくの匂いが漂ってる気がする。

息か?息のせいなのか。

身体に染み付いたにんにく臭は、なかなか落ちないようである。

にんにく恐るべし。

だが、幸い我が家には、大量の脱臭剤の備蓄がある。

以前寿々花さんが、魔女の秘薬を錬成したときに買ったものである。

備えあれば憂いなしってな。畜生。

俺がシャワーから戻ってくると。

「あ、悠理君がいつもの悠理君に戻ってる」 

「おぉ…。とりあえず服を洗濯したよ」

「凄い面白い匂いだったねー」

にんにくだよ。

明日、胃腸に異常を来すんじゃないかと今から心配である。

…さて、それはともかく。

寿々花さんの分、夕飯作るかな。

え?爆発した電子レンジの残骸はどうするのかって?

あれは見なかったことにして、そう…明日片付けよう。

今日はもう疲れたよ、俺。

「悠理君あのね、私、今日頑張ったんだー」

「うん、分かったって」

「お留守番マスターになれるよ」

えへん、とドヤ顔の寿々花お嬢様。

お留守番マスターは、留守中に電子レンジを爆発させたりしないよ。

「あ、そうだ。お昼寝してるときに面白い夢を見たんだよ」

「そうなのか?」

「うん。アンドロイドの女の子が人間の高校生の生活をする夢」

そりゃまた…ファンタジーな夢見てんな。

何処の世界の話だ?

「アンドロイドが焼きそばパン食べてたんだー」

「…それ、本当にアンドロイドか…?」

聞いたことないぞ。焼きそばパン食べる女の子。

無骨な人型のロボットが、焼きそばパンを頬張る姿を想像して、吹き出しそうになったそのとき。

…あ、そうだ。

俺、寿々花さんにお土産買ってきたんだった。

丁度良い。夕飯出来るまでちょっと時間あるし。

「お土産買ってきたんだよ。食べるか?」

「え?」

「寿々花さんがちゃんと留守番してたら、ご褒美にと思って」

「本当?わーい。私ちゃんと留守番してたよ」

電子レンジぶっ壊してるから、ご褒美も何もないはずなんだが。

まぁ折角買ってきたんだから、食べさせてあげるよ。

「中華まん…肉まんと、それからドーナツなんだけど…食べるか?」

「うん、食べるー」

「辛いのと辛くないの、どっちが良い?」

「うーんとね、辛くないの」

やっぱり子供舌だったか。

雛堂のおすすめに従わず、辛くないノーマル肉まんを買ってきておいて良かった。

「今食べて良いの?」

「良いよ」

「でも、ご飯前におやつ食べたら駄目だって、悠理君が」

言ったな、そんなこと。

まぁでも、今日は特別だ。

「今日は特別に、ご飯前のおやつを許可する」

「やったー。お留守番頑張って良かった」

そうだな。ちゃんと留守番しててくれたんだから、このくらいのご褒美はあってしかるべきだろう。

電子レンジの爆発は…まぁ、見なかったことにして。

「もぐもぐ…。肉まんとドーナツ美味しい」

「良かったな」 

寿々花さんにも、今日の食べ歩きのお裾分けが出来て良かった。
< 179 / 505 >

この作品をシェア

pagetop