アンハッピー・ウエディング〜前編〜
…映画が始まって、およそ2時間。

俺と寿々花さんは、並んで映画を観ていた。

クライマックスに差しかかったテレビ画面の中は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。

『に、逃げろ、逃げるんだ!奴らがもうそこまで…うわぁぁ!』

『いやぁぁぁ!あなた!あなたぁぁぁ!』

『あいつはもう駄目だ。早く逃げろ!』

『助けて!誰か助けてぇぇ!』

襲いかかるゾンビ集団に、逃げ惑う主人公一行。

…ふーん…。

「ゾンビさん、頑張れー」

俺の横で、寿々花さんがわくわくと呟いていた。

ヒーロー物のアニメ映画を観ながら、主人公のヒーローを応援するちびっ子のごとく。

応援するの、ゾンビ側なのか?

映画が始まって2時間、寿々花さんは特に怖がっている様子はなさそうだ。

むしろ、こうしてゾンビを応援してるくらいだから。

意外なことに、多少のホラー耐性はあるようだな。

…つーか、この映画じゃあ、怖がらないのも道理って感じだけど。

もっと怖いのかなと思ってたけど、そうでもなかった。

確かに、ゾンビのデザインは凄くリアルで、初見だとめっちゃ気持ち悪いんだけど。

物語が進むに連れて、何度もゾンビを見せられて、段々慣れてきたって言うか…。

パニックホラーって言うの?主人公達がパニックに陥って騒いでるのが、なんつーか、しらけるって言うか。

そりゃ誰だって、ゾンビに襲われたらパニックになると思うけどさ。

ゾンビを見る度に、大袈裟な金切り声で悲鳴をあげたり。

ゾンビから逃げてる癖に、行き止まりの部屋に逃げ込んで自分から追い詰められてみたり。

逃げる途中に仲間が転んで、「お前は先に行け!」「お前を置いていけるかよ!」みたいなありきたりなやり取りをして、結局二人共捕まったり。
 
なんか、こう…色んな「ホラー映画あるある」が、随所に散りばめられていて。

初めて見るはずのに、何処かで見たような展開だなぁ、と思わせてくる。

それはそれで、ホラー映画の鉄板シチュエーションを押さえていて。

確かに、初心者におすすめのゾンビ映画と言えなくもないが…。

「あ、エンドロールだ…」

終わっちゃったよ。

もうちょっと…一捻りあるかなと期待したんだけど。

呆気ないほど何もなかった。

何だ、こんなものか…。

パニックホラー映画…俺はあんまり刺さらなかったぞ。

しかし。

「これ面白かったね、悠理君」

寿々花さんは大満足のご様子。

面白かったのか、これ。あんたの昨日の夢の方が怖そうだけど。

「そうか?」

「うん。ゾンビがお墓の下から出てくるところとか…」

あぁ、確かにあのシーンは迫力があって、ちょっと怖かったけど…。

「ゾンビがぐわーって叫ぶところとか、凄かったー」

俺はいまいち刺さらなかったけど、寿々花さんは面白かったらしい。

怖かったって言うか…ゾンビが興味深かったって感じだけど。

寿々花さんだけでも楽しめて良かった。二人してしらけてたら、借りてきた意味がないからな。
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