アンハッピー・ウエディング〜前編〜
そういえば、俺…ホラー映画を観るの、これが初めてだったんだよな。

ホラー映画って、もっと怖いものだと思ってたよ。

わざわざ映画館まで行って、怖い思いをしたがるなんて…気が知れなかった。

意外と大したことないんだな。

これなら、動画サイトで心霊動画を見る方が怖いんじゃないの?

見たことないから、よく知らないけど。

とにかく、ゾンビ映画は大したことなかった。

何だ。これを怖がるなんて、雛堂って案外ビビりなのかもな。

物語中盤で退屈して、思わずポップコーンを摘まむ手が早くなってしまったくらいだ。

「さて…この後はどうする?」

ゾンビ映画は観終わったけど。

借りてきた映画は、あと二本残っている。

って言っても…押し入れと冷蔵庫だもんなぁ。

「こっちの映画も観てみようよ」

寿々花さんは、押し入れと冷蔵庫の映画を指差した。

うん、そっちなぁ…。

「でも、そっちは多分…そんなに怖くないと思うぞ」

一番怖いだろうと思われていたゾンビ映画でも、この程度だろ?

こっちの押し入れと冷蔵庫は、見るからに怖くなさそう。

さっきのゾンビより、もっとつまらないんじゃねぇの。
 
つまらない映画を2時間もかけて観ることほど、退屈なものはない。

「それは分からないよ?観てみたら、意外と怖いかも…」

「いやぁ、ねぇわ…。何が出てきたとしても、所詮押し入れ。所詮冷蔵庫…」

「…じゃあ、観ないの?」

観ないとまでは言ってねぇよ。

興味がなくても、折角借りてきたんだし…。

俺はともかく、寿々花さんは結構乗り気だしな。

時間ならあるし、下手に断って「それじゃあおままごとしよ」とか言われたら困るし。

おままごとに付き合うくらいなら、つまらない映画を眺めながら、コーラでも飲んでた方がマシだろう。
 
「いや、観てみよう。どっちから観る?」

「どっちが怖いの?」

「どっちも怖くなさそうだけど…。強いて言うなら、押し入れの方がまだ怖そうだな」

ってことで、『オシイレノタタリ』から観ようか。 

俺はDVDを入れ直して、再生ボタンを押した。



…思えば、このとき押し入れを舐め腐っていた俺が、愚かだったのかもしれない。
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