アンハッピー・ウエディング〜前編〜
再生開始から、およそ二時間後。

そのときの俺はと言うと、テレビの画面の前で固まっていた。

…さっきからエンドロールが流れてるけど、エンドロールを楽しむどころじゃない。

正直に言おう。俺は雛堂おすすめのホラー映画を舐めていた。

押し入れから何が出てきたところで、所詮押し入れだとたかを括っていた。

まさか、押し入れからあんなモノが出てくるなんて…。

俺、もう家の押し入れ開けられないよ。

舐め腐って再生を始め、ヤバい気配を感じ始めたのは、映画開始15分程度のことだった。

「あれ?もしかしてこの映画思ったよりヤバいんじゃね?」と内心危機感を感じていたのだが。

あれだけ舐めていたのに、寿々花さんのいる手前。

まさか今更、「やっぱり怖そうだから観るのやめよう」とは言い出せず。

内心、悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えていた。

途中からもう、画面見るのやめた。ちょっと視線を逸らして、テレビの後ろのカレンダーを見てた。

我ながら、最高に情けない。

しかも。

「ふー。面白かったね、悠理君」

ビビりまくっている俺とは正反対に。

寿々花さんは、キラキラした目でこちらを振り向いた。

…めちゃくちゃ楽しんでいらっしゃる。

そうか…寿々花さんはホラー…大丈夫な人だったか…。

凄くなんか、こう…負けた気分。

女の子の寿々花さんがこれほど余裕綽々なのに、男である俺がビビリまくるってどういうことだよ。

情けないにも程がある…けど、怖いものは怖い。

部屋の中を暗くしたせいもあって、怖さに拍車がかかっている。

カーテン、開けたままにしておくべきだった。

それなのに、寿々花さんは。

「うちの押し入れにも、あれ出てこないかなー」

「ちょ、ちょっと待て。やめろ」

徐ろに押し入れを開けようとするんじゃない。

出てきたらどうするんだよ。

冷静に考えたら、あんなのただのフィクションだと分かるはずなのに。

今だけは、到底押し入れを開けられそうになかった。

何なら、家の中にある引き戸、全部怖い。

どうしてくれるんだ。しばらくトラウマになりそう。

最初に観たソンビ映画の、20倍は怖かったよ。

俺のメンタル…俺のメンタルは、ゴリゴリに削られていた。

しかし。

「こっちも観ようよ、悠理君。これシリーズなんでしょ?」

あろうことか寿々花さんは、三本目の『冷蔵庫の中』を視聴することを要求。

おい、マジかよ。

一日に三本も映画観るって、本気か。

しかも…三本目の映画は、雛堂おすすめの『冷蔵庫の中』。

ふざけたタイトルだと馬鹿にしていたが、この映画、さっき観た『オシイレノタタリ』のシリーズ物なんだって。

絶対怖いに決まってる。

今度は何が出てくるんだよ。冷蔵庫の中から。

さっきの『オシイレノタタリ』を観るに…絶対ろくでもないものが出てくるに決まってる。
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